魔法のクリエイターと言われる理由、お教えします

人は知る。人は感じる。創作で。

【小説】グラディウス★天稟の魔道士

 ここはエトランシアという国。

 肉体を極限まで鍛え上げた戦士たちが、謎のモンスターを駆逐すべく、日々戦いに明け暮れている。

 モンスターたちは、どこからともなく現れて、破壊と殺戮を繰り返し、エトランシアの人々を苦しめていた。

 そして強大な力を持つモンスターに立ち向かうため、超常のエネルギーを研究する人々も現れた。

 彼らは魔法使いと呼ばれた。

 大自然の原理原則に従い、宇宙の理に通じ、火、水、風、土の4大元素を極大化させる業を使う。

 戦いは熾烈を極め、戦士と魔法使いの無残な屍が至る所に転がる地獄のような有様になった。

 そしてまた2人、ロダニア地方にやってきた。

 剣術士と魔法使いが、エトランシアに希望をもたらすべく、魔道の業を求めてきたのだった。

「ロダニア地方に、魔道士の聖地と言われる山がある。そのロダニア山の中腹で、修行の日々を送っているはずだ」

 アルベルトは、マリアに繰り返し話すのだった。

「アルベルト。そのロダニア山の魔道士を仲間にするつもりなの」

「そうできたらいいが。修行中の魔道士は、かなり気難しいらしい。多分無理だろう」

「それでも行くのはなぜ」

「魔道士の業をこの目で見てみたいからだ」

 アルベルトは独特の大剣を背中にしょっている。普通はこんなに大きな剣を持ち歩かないものだが、修行の一環だとして訓練用の大剣でいつも戦っていた。

 鎧は動きやすい鎖帷子を中に着込んでいるだけで、防具は軽装備である。

 そして背中にマントを羽織っている。

 マントは雨が降ったときに雨除けに使える。

 旅には必須のアイテムだ。

 マリアは攻撃、防御、回復の魔法を一通り使いこなすことができる。

 魔光の真玉を胸につけたローブをまとい、手には小さな棒きれを持っているだけである。

「私は普通の魔法使いだけど、魔道士様はどんな業を使うのか、噂でしか聞いたことないわ。何か参考にできるなら教えを乞いたいわね」

「ああ。魔道士の話ばかりして悪いな。マリアも『魔光の真玉』を持つ魔法使いの高弟だ。頼りにしてるぞ」

 不意に、マリアの表情が険しくなった。

「いるわ」

「ああ。凄い気を感じる」

 100mほど前方の岩山の陰に、巨人のようなモンスターが立っていた。

「特大のトロルだな…… 身長5mはあるぞ」

「私が挨拶しようか」

「いや。俺が片足を薙ぎ払ってみる。初太刀を入れたら、たたみかけてくれ」

「りょーかい! 」

 マリアは瞑想を始めた。魔光の真玉に気をため込んでいく。

「よっしゃあああぁ 」

 アルベルトはトロルへ向かって一直線に駆けていく!

 独特の体捌きで、滑るように身を躍らせて大剣を抜いた。

「そりゃあああぁ 」

 一度上空に高く飛んだ!

 トロルはアルベルトに照準を定めると、持っていた丸太のような枝を横薙ぎにしてきた!

「チイイイィ 」

 ドガ

 脇腹に襲い掛かる丸太に大剣を突き刺し、身体ごと反転させた。

 丸太は半分以上吹き飛んだ!

「おらあぁ 」

 着地と同時に剣を脇に構え、トロルの左足を払いにいく。

「グオオォ 」

 耳をつんざくような、トロルの雄たけびに、一瞬怯んだ!

 次の瞬間。

「ゴオオオオォ…… 」

 何と、口から炎を吐いて攻撃してきた。

「うわっ。こんなの聞いてないぞ! 」

 炎は火柱となり、アルベルトを焼き尽くそうと襲い掛かる。

「ヴェイントス! 」

 ヴァアアアァァ……

 突風が吹き、アルベルト諸とも炎を吹き飛ばした。

「ゴルルルル……」

 トロルはマリアを睨みつけた。

「今度はこっちにきそうね…… 」

 力を貯めるように身をかがめると、マリアに向けてダッシュした。

 マリアは両手を突き出し一瞬眼を閉じた。

「フラーマ! アークァ! 」

 ゴオオォォ……

 トロルとの間に火柱と水柱が立つ!

 ダッシュの勢いが弱まった。

「オラア! どこ見てやがる」

 アルベルトが左足めがけて踊りかかった!

「うおおおおぉ 」

「よし! シンティラ! 」

「グアァァ…… 」

 火柱と水柱が、磁石に吸い寄せられるように合体し、槍のようにトロルの腹を貫いた!

 同時に左足先が宙に飛んだ。

 トロルが少し宙を舞い、地面に叩きつけられた。

 ズウウゥン……

「やったわ」

「ふう。ちっとヤバかったぜ」

 アルベルトは左腕に火傷を負っていた。

「ちょっとみせて」

 前腕が焼けただれていた。

「ラディトス…… 」

 傷口に手をかざすと、白く光る。

 見る見るうちに火傷が治っていく。

「このトロルは1体だったから倒せたが、他のモンスターがいたらやられていたかもしれない…… 」

「この一帯は、モンスターが強力になっているのかもしれないわ。私は気を溜めながらいつでも極大の魔法を出せるようにしておきます」

「モンスターを発見したら、すぐに先制攻撃した方がいい」

 半日ほど歩いた。

 時々白骨化した死体を見つけた。

 だがモンスターは現れなかった。

「よし。ここで一休みしよう」

 日が暮れてきたので、焚火をたいて交代で仮眠を取ることにした。

「もう少し進むと、集落があると聞いたわ」

「食料も調達したい。ここのところ木の実と川魚くらいしか食べていない。食えそうな動物もいないしな」

 ロダニア地方は、乾燥していて見渡す限りまばらな草原があるだけだった。

 時々低木樹もあるが、食べられるものは少ない。

「腹が減っては戦はできぬ、だね」

「魔法使いがバテたら、俺も死ぬかもしれない。マリアが先に休んでくれ」

「ごめんなさい。高級魔法を連発してちょっと疲れてたの。お言葉に甘えるわ」

「おやすみ」

 ロダニアのモンスターは強いと聞いていたが、昼間のトロルには驚かされた。

 攻撃魔法を極め、ヒーラーでもあるマリアがいなければ、どうなっていたかわからない。

「もしかすると、俺もここで死ぬのかも知れない」

 アルベルトは旅の剣術士から手ほどきを受け、ほとんど我流で業を磨いてきた。

 体捌きは見よう見まねで身につけたものだ。

 物心ついたときからモンスターを倒すことを考えつづけ、子ども同士で遊びながら体術を練り上げ、剣を振り続けてきた。

 同じような境遇で身体を鍛え続ける人たちの中には、至高の領域で身体操作をできる者も少なくない。

 達人の業を見て、簡単なレクチャーを受けただけでものにできる訳がない。

 こうして冒険の旅をしながらも、四六時中精度が高い体捌きを心がけ、実践してきた努力のたまものである。

 そんな人たちでも、強力なモンスターの前に屍と化すさまを何度も見てきた。

「死ぬことは怖くない。だが、何もできずに死ぬことは怖い」

 強力なモンスターに対して接近戦を仕掛ければ、自分も大けがをする。

 1体倒しても、次の戦いでパフォーマンスが落ちるだろう。

「トロルに対して無暗に突撃するべきではないな。炎を避けきれなかった。次は間合いを取って様子を見ることにするか…… 」

 何度も頭の中で戦闘をシミュレーションした。

 一瞬の判断が生死を分けるかもしれない。

 万が一マリアが倒れたとき、1人でも生き延びる戦い方をしなくてはいけない。

 冷静に分析すると、トロルの戦闘力は高い。

 自分一人では、無傷ですまないかもしれない。

「もっと修行して強くならなくては」

 しみじみと考えながら焚火の揺らめきを眺めていた。

 

 夜の帳が降りて、星空が広がっている。

「ああ。どこまで行っても星空は変わらないな」

 どこまでも続く荒野が、星明りで銀色に光っている。

 美しい光景に見入っていると、自分の行く末には闇が待っていることを予感させられた。

「あと何回、この星空を拝めるだろうか…… 」

 ふと、弱気が顔を覗かせる。

 マリアが目を覚ました。

「ふわあ。良く寝たわ。お陰様で疲れが取れたよ。交代しましょう」

「俺は少し寝れば充分だ。ちょっとの間周りを見ててくれ」

 というと、岩にもたれかかり眠りに落ちた。

「昼間のトロルは攻撃力は高いが、防具を身に着けていなかったし、魔法に耐性もなかった。もし火と水を合成した極大魔法が効かなかったら、次の手がなかったわ…… 」

 マリアも昼間の戦闘を振り返り始めた。

「私もそろそろ、鬼籍に入るときかもね」

 自分に言い聞かせるように呟いた。

「ああ。テイシアの仲間たちは元気かしら…… 」

 エトランシア最大の街、テイシアには魔法使いギルドがある。

 そこで幼い頃から修行を続けてきた。

 「魔光の真玉」を使えるようになってからは、エトランシアに平和をもたらすために、さまざまな任務をこなしてきた。

 そんな中、ある任務でアルベルトと共に戦い、行動を共にするようになった。

 彼は在野の剣術士の中では、突出した戦闘能力を持っていた。

 何より、精緻な身体操作の能力は天性のものだと感じた。

 ぜひとも彼をテイシアに連れて帰り、戦力に加えたい。

 そして、魔道士の力をこの目で見てみたい、という気持もあって同行したのだった。

 だが、先ほどのトロルの力に押され気味だったことは厳然たる事実だ。

「ここで退くべきなのかもしれない…… 」

 もっと修行を重ねて、力をつけてから挑むべきなのかもしれない。

 ふと、星空に目を移すと、一部の星が欠けたことに気付いた。

 マリアは弾かれたように飛び起きた!

ガーゴイル…… アルベルト! お客さんだよ」

 いうが早いか、アルベルトも跳ね起きた!

「1体か? 」

「まだ遠くてわからないわ」

 ガーゴイルは巨大なコウモリのようなモンスターだ。

 大きな翼で空を飛ぶことができる。

 頭部と身体は人間の姿をしている。というより、いかつい鬼のような風体だ。

「魔法や炎を使う個体もいるらしい。こういう敵に剣は向いてないな」

「任せて。射程に入ったらすぐ撃ち落とすわ」

 マリアの瞑想が始まる。

「おい! 2体いるぞ」

「なら、風で吹き飛ばすわ」

 空を飛ぶモンスターには、気流を変化させる攻撃が有効である。

「ヴェイントス! 」

 ガーゴイルの動きが止まった。

 だが墜落させるほどではない。

「トゥールヴォ! 」

 突然竜巻が起こり上空高く舞いあげた。

「このまま焼いてやるわ! フラーマ! 」

 地面から火柱が立ち上ると竜巻が巻き込む。

 炎が夜空を貫き、辺りを赤々と照らし出す。

 そして巨大な火炎と化してガーゴイルを焦がした。

「ぐぎゃあああぁ…… 」

「効いたか! 」

 2体とも逆さまになって落ちていく。

「うおおおぉおぉ! 」

 アルベルトが着地点に向かって駆けていった。

「そりゃあぁぁ! 」

 1体を横なぎに斬りつけた。

 だがそのとき、

「ファイア! 」

 もう1体が身体を焼かれながらも魔法を唱えた。

 アルベルトに火球が襲い掛かる。

「ちいいぃっ」

 間一髪、体を捩じって躱した。

「おりゃあぁぁ! 」

 1体を両断すると、返す刀でもう1体の首を撥ねた。

「やったわ」

「ふう…… 」

 ガーゴイルの遺体を焼く炎が辺りを照らしている。

「焼いて食えるモンスターなら良かったがな…… 」

「食べてみる? 」

「人型は食えそうにない」

 不意に人の気配がした。

「誰だ! 」

 睨みつけた方向から、大男と背の高い女が現れた。

「パチパチパチ…… 」

 大男がニッコリ笑いながら拍手をしている。

「いやあ、あんたら。強いねえ。惚れ惚れするよ…… 」

「あたしはサラよ」

「いや。失礼した。おいらはモンドだ」

「焚火を見つけて、近づいてきたら派手な攻撃魔法が見えてね。ここのモンスターは強いわ。一緒にパーティーを組みましょう 」

 何を思ったか、アルベルトは剣を投げ捨てた。

「オラアアァ!」

 雄たけびと共にモンドに組みついた!

「ちょっと! 何するの! 」

 マリアは驚いたが、サラが間に入って制した。

「大丈夫よ。頭では理解しても、筋肉で理解したいみたいね」

「ふぬううくううぅ…… 」

「おい! お前、体格差を考えろ。正面から組みついたら勝ち目はないぞ! 」

 お互いに組み合って押し合いになった。

「ぐぎゅぎゅうううぅ…… 」

 アルベルトは泡を吹きながら押し続ける。

 しばらく膠着していたが、モンドの足元の土がえぐれていく。

 メキメキッ…… 

 骨がきしみ、全身から汗が噴き出した。

「おい。ウソだろ…… 」

「ウオオオオラァ! 」

 あくまでも、真っ直ぐに押し切ろうとする。

「クソッ! フンッ! 」

 モンドは上手投げにして地面に叩きつけた。

 ドガッ!

「ぐうあっ! 」

 背中をしたたかに打ちつけたアルベルトは大の字に伸びた。

 だがまた立ち上がろうとする。

「まて。もういいだろう。おいらの負けだ。お前に押し負けたよ」

「フー! フー! フー…… 」

 獣のようになっているアルベルトは、闘争心が冷めないようだ。

「よし。ここを思い切り突いてみろ! 」

 モンドは右手を開いて突き出した。

「ぐうおあぁぁ! 」

 ドゴオオォ……ン!

「ちいっ! やはりな」

 モンドは衝撃で一歩分押し込まれていた。

 手のしびれが尋常ではない。

「お前、この体術をどこで身に着けた? 」

「ヒュウゥゥ…… ふうぅ…… ああ。体術か…… 」

「そうだ。お前はよほど良い師に恵まれているはずだ」

「さあな。旅の剣術士や闘士にちょっとずつ習ったよ」

「恐ろしく腰が入っている。こんなパンチは久し振りに受けたぞ…… 」

「腰…… そういえば、背中の真ん中辺りを意識しろって、誰かが言っていた。そのことか? 」

「お前の動きは『ネリ』という体術だ。間違いない。旅の戦士から何と言われたか教えてくれ」

「そうだな…… 足の裏全体を常に地面につけろ…… 頭を動かさずに身体を捌け…… あとは…… ううん…… 思いだしたらいう」

「凄いぞ。お前はそれを完璧に体現している。よほどの素質を持ち、努力をしなければ、できないはずだ」

「そうなのか? 」

「お前の攻撃には、常に全体重が乗っている。そして、反射速度を超えて体が反応している。この体術で剣を振るうということは、とてつもないことだぞ」

「そういわれてもな…… 俺はチョーシに乗りやすいタイプだ。あまりおだてないでくれ。このロダニア地方へ来てから、そろそろあっちの世界に行くかもしれないと思っていたところだしな」

「ああ。言葉はあれだが、お前の精神性も高いレベルで調和している。まさに『心・技・体』の調和だ。おいらは、アルベルト。これからお前の技を、一生懸命盗むよう努力することにしたぞ」

 このモンドという闘士は、図体はデカいがアルベルトの才能を前に目を輝かせて感激して、センチメンタルになってしまった。

「そうだ。前から気になっていたんだが、皆聞いてくれ」

 3人はアルベルトの前に集まってきて神妙になった。

「俺の名前は『アル』でいい。ずっとそう呼ばれていた。いざというとき俺の名前は微妙に長くて言いにくい」

「ああ。そんなことか。おいらは『モン』でもいいぞ。わはは」

「改まって、何かと思ったわ」

「アル。あたしは白魔術を究めたヒーラーだから、あなたとモンドをサポートするのが主な仕事になるわ。闘士であるモンドは接近戦が得意なの。だから剣術士であるあなたが最も冷静に戦況を把握しなくてはならない立場になる。だからリーダーってことで良いわね」

「わかった。それと、モンド。お前の体術にも何かあるだろう」

「俺は『剛体術』を修めている。だが、お前の『ネリ』の方が100倍凄いぞ」

「よし。夜が明けてきた。ロダニア山を目指そう」

「アル…… この剣を使ってみて」

 腰につけていた小太刀のような剣を差し出していった。

「サラ。これは? 」

「『風の剣』と呼ばれる、風の魔法を込めて鍛え上げた剣なの」

「噂には聞いたことがある。ソニックブームを起こす剣らしいな」

「おお。そうだ。アルが使えば信じられないパフォーマンスを発揮するんじゃないのか」

「ちょっと振ってみるか…… 」

「うわあ! いきなり抜くな」

「きゃあ! 」

「ひっ」

 ぶんっ!

 ぱかんっ!

 元気よく一振りすると、遠くの岩が吹き飛んだ。

「おお。凄いぞ! ガーゴイルともこいつで戦える! んっ。皆どうした? 」

「これでわかったでしょ。この剣はあなたが持つととってもヤバいの。私たちがあの岩みたいになるところだったの」

「何とかに刃物。アルベルトに風の剣…… 」

「風の剣術士……ってところね」

 

 4人は隊列を組んで歩き始めた。

 先頭がモンド。

 2番目にマリアとサラが並び、しんがりがアルベルトである。

 4人は距離を取ってそれぞれ4方を分担して警戒していた。

「4人パーティになって、心強いわ。私、焚火をしんみり見つめながら、そろそろ鬼籍に入るときかもって思ってたのよ」

「マリアは強力な攻撃魔法が使えるでしょう。私はヒーラーよ。モンドがいなければとっくに鬼籍に入ってるわ」

「モンド! 敵が見えたら言ってくれ! 俺の風斬りを試したい」

「ああ。『風斬り』って名前つけたんだな。センスがイマイチだな。横文字にしないか。凄い必殺技なんだから」

「じゃあ、『スーパー・ソニックブーム2号』! 」

「ああ。緊張感がなくなってきたわね。それだけ心強い仲間を得て安心したってことね」

「まあ、いいじゃない。サラ。これから修羅場が待っているかもしれない。こういう雰囲気も今のうちかもしれないわ」

「おいら、閃いたぞ! 『竜巻斬り』はどうだ! 」

「どこから竜巻がでるんだよ! 意味不明だぞ」

「出るかもしれないぞ。アルが回りながら振れば! 」

「おい! いい加減なこというと本当にやるぞ」

「むうっ! アル、竜巻斬りをやれ! みんな伏せろ! 」

 ハッとして上空を見た。

「サラ! マリア! 伏せていろ」

 4方からガーゴイルがやってきた。7、8体いるようだ。

「ぐおおぉぉ…… 竜巻斬りぃぃ! 」

 風の剣を抜くと、螺旋を描くように上空めがけて振り上げる!

 ソニックブームガーゴイルを捉えた!

「ぐぎゃぁぁあぁぁ…… 」

 血しぶきを上げて5体が墜落した。

「残りは3体ね! アークァ! 」

 ボコボコボコ……

 大きな水滴が次々に現れ、シャボン玉のように増殖していく。

「ぬううううううぅ…… 」

 マリアが手をかざす方向へ集まり、ガーゴイル2体を取り込んだ。

「ガハッ! ゴボボボ…… 」

 呼吸ができずにもがき、やがて動かなくなった。

 残り1体がモンドに襲い掛かる!

「フン! 」

 直径1m以上ある岩を拳で殴りつけた!

 砕けた砕片が飛び散り、一瞬バリアのように周りの空間を埋めた。

「そおれっ! 」

 10㎝ほどの石をガーゴイルめがけて投げつけた!

 ドガッ!

「ぎゃあああぁあ! 」

 頭蓋を砕かれたガーゴイルが墜落した。

「凄いわ。あなたたちがいれば、ドラゴンでも倒せるかもしれない…… 」

ガーゴイルは人間の知能並みのを持っているといわれている。夜倒した2体がいなくなったことを知った個体が、パーティ-を組んだ俺たちを見つけて、仲間を呼んで襲い掛かってきたのかもしれない」

「だとすれば、トロルはどうかしら。5m級は厄介だったわ」

「どうだろうな。モンドたちがいるし、風の剣がある。今度は大丈夫だろう」

 遠くに集落が見えてきた。テントがいくつか見える。

「ありがたい。集落だ」

「魔道士の情報が得られるかもしれないわ」

 近づいてくると、入口に見張りの姿が見えた。

「おおい。おいらたちは…… 」

「ちょっと待って。私が話をするわ」

 マリアがモンドを制していった。

「私はテイシア獅子王団魔法使い遊撃隊所属のマリア・ルイス下士官だ。ロダニア地方のモンスター討伐のため、この地に来た。ご協力願いたい」

「我々は、この地で奮戦する冒険者を支援するために、この集落を死守している。休養する場所を提供しよう」

「ありがとう。それと、魔道士の情報は何かあるかしら」

「先日1人、魔法使いが修行のために山に入りました。下山する魔道士はしばらくいません」

 マリアを先頭に、集落に入った。

 テントを一つ与えられた。

「ここでゆっくり睡眠を取っていきましょう」

「そうだな。俺とモンドは外でいい。魔法使いの2人はここでゆっくり休んでくれ」

「ああ。ちょっと周りの様子も見てこよう」

 この集落には剣を持った戦士2人と魔法使い5人がいるようだ。

「干し肉だ。ここには食料になる生物が少ない。充分に腹ごしらえして行ってくれ」

「ありがてえ。俺が干物になるところだった。なあ。モンド」

「このご恩に必ず報いる。ありがたくいただく」

 4人は充分な休養と食事をとることができた。

「ここへ来るまでに、特大のトロルとガーゴイルの襲撃を受けた。他にどんなモンスターがいる? 」

 戦士の1人が応えた。

「ロダニア地方にはワーム、化けネズミ、ドラゴンなどもいる。魔法や炎を使う個体が多いので気をつけろ」

「ドラゴンもいるのか…… やばいな。今のレベルでは勝てないかもしれない」

「敵だ! 」

「お客さんが来たらしいぞ」

「アル! 加勢するぞ」

「よしっ! 一宿一飯の恩義だ」

「化けネズミの大群だな」

「いったい何匹いるんだ? 」

「化けネズミは、地中に大きな巣を作って共同生活をしているらしい」

「けっ、モンスターの分際で…… 」

「あんたたち! 俺が風の剣で数を減らす! 下がっていてくれ」

 集落の戦士たちは怪訝な顔をした。

「まあ、アルを見ていてくれ。派手な技だ。巻き添えを食うなよ! 」

「そりゃあああぁ! 」

 アルベルトは柄に手を添えたまま身をかがめ、真っ直ぐに突進した!

「風斬りぃぃぃ! 」

 右足を前に滑らせると同時に腰を鋭く切り、剣を抜く……

「ゴオォォォ…… 」

 突風のような大風が吹き荒れ、かまいたちのように化けネズミを切り裂いた!

 

  ――10年前……

「アルベ……ルト…… 冒険者が来たそうよ」

 修道女のルナが、アルベルトを起こした。

 両親は冒険者としてテイシアの任務に参加して戦い、アルベルトが物心つく前に戦死していた。

 父のアレスは腕の立つ剣術士だった。

 母のテルミスは攻撃魔法を得意とする魔法使いだった。

 孤児だったアルベルトは、ルタ村の小さな修道院に引き取られ、修道士と修道女、そして他に3人の孤児と生活していた。

「ルナ。おはよう! 」

「アル!早く来いよ」

 元気がいいグレッグが、アルベルトを待っていた。

「フーバーとカールは先に行ったぞ! 」

「じゃ、これをお願いね」

 ルナは蓄えていた干し肉と、野菜の酢漬けを手渡した。

 冒険者がやって来ると、村人たちは食料を分け与えることになっていた。

「今度はどんな冒険者かな」

「剣術士だといいなあ。おれ、剣の腕を磨いてモンスターを一匹残らずやっつけてやるんだ」

「アルは剣一筋だな。僕は魔法使いになりたいから、魔法使いが来ないかなぁ」