東京都内のマンションの一室で、事件は起こった。
家賃を滞納していたため、管理人が何度か訪ねてきたが返事がない。
保証人も連絡がつかないため、合鍵を開けて入ることにした。
中空の鉄扉にガチャリと響く。
ドアポストにはマンションのチラシが挟まれていたが、新聞はない。
最近は孤独死が増えている。
もし病気や事故で死体があったら、事故物件になってしまう。
さまざまな憶測が身体を|強張《こわば》らせた。
中から独特の臭気が流れ出る。
汗のような|埃《ほこり》の匂いではない。
一般住宅にはない匂いだった。
ドアを全開にして、中を見回す。
「中川さん」
大きめの声で呼んでみた。
奥の部屋を開けると、フラスコや試験官が所狭しと並んでいる。
さまざまな薬品が入っていた。
借主は、何者なのだろうか。
人の気配がないため、出直すことにした。