魔法のクリエイターと言われる理由、お教えします

人は知る。人は感じる。創作で。

【小説】戦国のジクウⅡ

2つの影

 

 ポツリ、ポツリ。

 闇の中、|雫《しずく》の音が間断なく響く。

 洞穴の冷気が奥から|微《かす》かに首元をなでる。

「──よ…… ニッコウよ…… 」

 奥から絞り出すような声が低くこだました。

「はっ。こちらに── 」

「例の者たちは、徐々に力を増している。

 もはや、猶予はないぞ」

 地に臥し、額を岩にこすりつけるようにしたニッコウは、顔を上げることができなかった。

「申し訳ございません。

 すべてこの、ニッコウの不徳の致すところ」

「先ごろ、真言でお主を呼んだ、|武士《もののふ》はいかに」

「はっ。

 剣の才は神の領域でございますが、|何分《なにぶん》経験不足のため、今しばらく修業が必要かと── 」

「むう。歯切れが悪いのう……

 若い|祓魔師《ふつまし》を育て、妖魔に備えるがお主の役割。

 国の命運がかかっておるぞ」

「心に刻み、日々精進いたします」

「お主自身の法力では、到底及ばぬ妖魔も現れるようになった。

 そして、時空を越えて復讐しようとする者もおる。

 どういうことかわかるな」

 脂汗が額を通じて流れ、荒い呼吸が地を伝い、離れた両手に感じるほどだった。

 見開かれた双眸を、少し上げ闇の奥を覗き見る。

 徐々に形を帯びた人影が、頭上に現れつつあった。

「|面《おもて》を上げよ。

 そう堅くならんでいい。

 腹を割って話そうではないか」

 ゆっくりとした動作で、膝立ちになる。

 目の前に、小さな老人が立っていた。

 炎のような赤い|眼《まなこ》に、|剃髪《ていはつ》。

 色あせた|袈裟《けさ》には、血に染まった跡が見える。

 老人がゆっくりと歩を進める。

 ヒタヒタと岩を|擦《す》り、水たまりの上を滑るように。

「蓮は、泥の中から|出《い》でる── 」

 傍らにあった岩に腰かけ、ニッコリと笑いかけた。

「お主は、泥に染まらぬ蓮だ。

 人間は、迷い、悩み、煩悩という泥にまみれる。

 鍛え抜かれた祓魔師であっても例外ではない──

 さて。

 時が惜しい。

 お喋りは修行しながらするとしよう」

「はっ」

 老人は、右手を丹田のあたりに振り上げたかと思うといくつかの印を結んだ。

「オー ン── 」

 ニッコウも同じ印を結ぶ。

 2人は洞窟から抜け出ると、上空へと舞い上がる。

 上昇気流に|煽《あお》られ、着物の袖が浮き上がり髪を逆立てる。

 両腕を広げたニッコウの双眸に、余裕の色はなかった。

「飛行呪の印の速さ、正確さを見ても、お主の才は突出している。

 だが、妖魔の中には── 」

 老人の口角が上がり、不敵な笑みを浮かべる。

「遠慮はいらぬぞ。

 全力で来い」

 印を結んだニッコウは、両手を突き出し光を帯びる。

 徐々に光が大きくなり、全身から波動がほとばしる。

「原初の最高神たる大日如来よ!

 全宇宙に漂う光の力を我に与えたまえ──

 オーン ヴァジュラ ダートゥ ヴァーン…… オーン ヴァジュラ ダートゥ ヴァーン……

 大日如来日輪光爆炎!!! 」

 辺り一面を光の炎が輪になって広がる!

 老人も印を結び、左手を突き出した!

「オーン アヴィラ フゥーン カァーン! 

 来たれよ!

 胎蔵大日如来!! 」

 互いの光の輪が重なり、波紋のように干渉していく。

 ニッコウの激しい光が、吸い込まれるように小さくなる。

 術が吹き飛び、山肌と空が静寂を取り戻した。

先代の力

 

「恐れ入りました。

 さすがは、先代ジクウ様です」

 2人は地上へ降りた。

 ニッコウは地に膝間づいた。

「|伊達《だて》に長生きしとらんよ。

 と言いたいところだが、妖魔は徐々に力を増しておる。

 今日まで生きてこられたのは、単に運がよかったからだ」

 ニッコウは黙ったまま、地面を見つめていた。

 先代ジクウと呼ばれた老人は、静かに目を細め、遠くを見た。

第六天魔王の出現は、怨みの力を増幅させ妖魔を強大化した。

 己を遥かに上回る妖魔に立ち向かう祓魔師に、必要な資質は何だと思う」

 少し間をおいて、ニッコウが立ちあがる。

「まだまだ、法力が足りません。

 さらに修行して、神に近づくしかありません」

 先代ジクウは、ふっと口元を緩めた。

「お主は強く、一途だが、少々堅いのう」

 ため息をついて、空を見上げた。

「妖魔を退け、世を平定するためには蓮の心が必要だ」

「つまり、泥に染まらぬ気高き心── 」

 射貫くような目で、先代ジクウが向き直った。

「ニッコウ。

 繰り返すが、お主が頼りだ。

 才能とは、己が気づかぬところにあるもの。

 金剛大日如来の化身となったお主が、祓魔師たちを導くことだろう」

「恐れ多いお言葉でございいます」

 張りつめた空気が、陽射しに照らされた。

 周囲の木の葉が鮮やかに色を帯び、草の匂いが鼻を突く。

「わしは、例の小僧を高みに引き上げに行く。

 決戦は近いと思え」

 先代ジクウは木陰に下がり、再び闇へと消えていった。

白い幻

 

「今夜は、何も出ないかも」

 源次とアシュラは夜回りをしていた。

 漆黒の闇が村の家々を包み、2人の微かな足音以外には聞こえるものがない。

 静かな夜だった。

 源次の腰には、法力で鍛えられた剣を携えていた。

「この剣は、法力と同じ効果があるらしいな」

 アシュラは油断なく周囲を見まわす。

「源次さんはまだ法力を使えないですよね。

 それでニッコウ様が貸してくださった剣です。

 護身と妖魔退治に役立つ強力な武具です。

 抜くときは周りを巻き添えにしないよう注意してくださいね」

 源次は驚いて向き直った。

「そんなに凄いのか」

「源次さんが本気で振ると、村が消滅するかもしれませんよ」

 アシュラはニヤリと笑った。

 出掛けにニッコウの剣を持ってきたのだが、どうも普通の剣ではないらしい。

「ひひひ……

 うまそうな女がいるな── 」

 背後から、|掠《かす》れた声がする。

 源次は刀の|柄《つか》に手をかけた。

「アシュラ。

 ちょっと剣の威力を試してみたい。

 離れていてくれ」

 アシュラは何か言おうとしたが、源次は鯉口を切った。

「ぎゃあああ! 」

 背後に現れた影が、光の炎に包まれ燃え上がる!

 剣から放たれた法力が、一瞬で妖魔を倒したのだった。

「ちょいまち! 」

 源次の脇に現れた男が、柄を蹴り鞘に納める。

 パチリと乾いた音を立て、光が消え去った。

「おい!

 何やってんだ!

 めんどくせえな」

 男は家の屋根に飛び乗り、辺りを見まわしている。

「ヤシャ! 」

 飛び降りたヤシャは、アシュラを小突いた。

「|天叢雲剣《あめのむらくものつるぎ》を持ちだして、何をしてるんだ」

「痛いわね!

 ニッコウ様が、源次さんにって渡したのよ」

「その剣は、最強の法具の一つで簡単に抜くような代物じゃない。

 あんたは、わかっているのか」

 源次を睨みつけた。

「そうだったのか。

 さっきアシュラがそのようなことを言っていたが── 」

「ちっ、しみじみしてんじゃねえよ。

 村が消し飛ぶところだったぞ。

 めんどくせえな」

「さっき鬼がいたみたいね。

 鯉口を切っただけで、下級妖魔は消し飛んでしまうの。

 とっても凄い剣だけど、周りに人がいる時には無暗に抜かない方がいいわ」

「だから、遅せえってんだよ。

 めんどくせえ奴だな」

 源次はため息をついた。

「いや。

 拙者の思慮が浅かった。

 ヤシャ殿の言う通りだ」

「今夜は引き揚げましょう」

 アシュラが言うのを制した。

「なあ。

 迷惑ついでに、魔界へ来てくれないか」

 天叢雲剣を横目に見ながら、ヤシャが神妙な顔つきになった。

「もしかして、今日はその日なの」

「センジュ様が魔界の様子を探りに行ったのだが、俺たちも一緒に入ったのだ。

 さっきは鬼を追って、魔界の口から出てきわというわけさ」

魔界へ

 

「ニッコウ様が、天叢雲剣を貸してくださったことには意味があると思うの。

 さっきからずっと考えていたのだけど、源次さんの才を認めているのだと思うわ」

「拙者は剣術もロクに知らない田舎侍だが」

 源次は素直に喜べなかった。

 盗賊に殺されかけて、思いがけずに祓魔師の修行に加えてもらったのだから。

 だが、天叢雲剣の威力の凄さに少し自信を持っていた。

 魔界と言われても、ピンとこなかったと言った方が正確かもしれない。

「それでは、アシュラ。

 加勢するとしよう」

 源次は当然とばかりに、ヤシャの後について行った。

「源次さん、魔界には── 」

 言うが早いか、ヤシャが印を結ぶ。

「臨める兵、闘う者、皆陣をはり列を作り前に在り──

 |臨《りん》・|兵《ぴょう》・|闘《とう》・|者《しゃ》・|皆《かい》・|陣《じん》・|列《れつ》・|在《ざい》・|前《ぜん》」

 アシュラも目を閉じ、同じマントラを唱える。

 源次もそれに倣った。

「|臨《りん》・|兵《ぴょう》・|闘《とう》・|者《しゃ》・|皆《かい》・|陣《じん》・|列《れつ》・|在《ざい》・|前《ぜん》── 」

 前方の空間にポッカリと闇の穴が開き、徐々に広がっていく。

「我が守護神たる、金剛夜叉明王よ。

 現世に来たりて魔を退け、魔界への道を開き給え──

 オーン ヴァジュラヤクシャ フゥーン…… 」

 闇が視界を埋め尽くし、地面も空も消え去った。

 まるで、星のない宇宙をさまようように。

「うっ。

 何だこれは」

「源次さん。

 心配ないわ。

 ヤシャの術で妖魔を寄せ付けない闇を作りだしたの。

 これから魔界へ行くけど、絶対に私たちから離れないでね」

「源次。

 魔界へ入った。

 ここからは命の保証はないぞ。

 めんどくせえけどな」

「すぐに妖魔が現れます。

 今度は迷わず抜いてください」

 異様な緊張感が走る。

 闇が徐々に薄れ、赤い土の原野が現れた。

「魔界の土は、血でできているといわれています」

 風に少し血の匂いを感じる。

 遠くに岩場が見え、空は朱に染まっている。

「血は、鉄のにおいがする── 」

 恐怖が|鳩尾《みぞおち》を締めあげ、思わず口にでた。

 

朱い空

 

 体は力んで硬直しているが、視線はぼんやり彼方を見ていた。

 源次は力を抜かねばと心では思うのだが、焦りがさらに力みを強くした。

 冷汗が背中を伝い、全身の毛が逆立つ。

「これは、只事ではない」

 黙っていると、プレッシャーに潰されそうだった。

 何かがいる。

 想像を絶する存在が、自分を脅かしている。

 心臓の音がうるさくなる。

 不意に、遠くで爆音が響いた。

「うわっ」

 |咄嗟《とっさ》に身を伏せた。

「源次、いい反応だぞ。

 ビクビクするのは、悪いことじゃない。

 死地に活路を見いだすには、逃げる選択も重要だ」

 もっともらしく、ヤシャが言った。

「何か来るわ」

 アシュラが印を結んで彼方を睨んだ。

「男は、己を知る者のために── 」

 上空から、巨大な鬼が降りてきた。

 背丈は源次の2倍ほどもある。

 |蓬髪《ほうはつ》を風になびかせ、角と牙が長い。

 筋骨隆々とした、闘士体型が見るからに強さを感じさせた。

 ヤシャが源氏を|一瞥《いちべつ》した。

「ちいっ!

 剣を抜け!

 斬り上げろ! 」

 叫ぶが早いか、源次の剣は天空を刺した!

 斬撃が光の衝撃波を作り、鬼を両断する!

「ぐっ!

 何だこいつは─── 」

 血しぶきを上げ、脳天から真っ二つにした!

 だが、表情一つ変えずに源次の手元を睨みつけた。

 鬼は崩れ落ちる左半身を右手で受け止め、元通りにくっつけようとしている。

「これが鬼か」

 続けざまに横|薙《な》ぎにした! 」

 胴を真っ二つにして、地面に崩れた鬼は、なおも再生しようとする。

「炎を統べる火天よ!

 魔界へ来たりて、|彷徨《さまよ》う御魂を滅ぼしたまえ!

 オーン アグナイェ スヴァーハー! 」

 鬼のかけらが炎に包まれ、やがて消えていった。

 3人は油断なく周囲を見渡している。

「キメ台詞を吐いたようだが、何て言おうとしたんだ」

 ホッと一息ついたヤシャが振り向いた。

「うむ。

 これまでかと思い、主君に仕える武士の心を言ったのだ。

 命を懸けると── 」

「悪くないな。

 源次。

 鬼を倒すには、法力が必要だ。

 |天叢雲剣《あめのむらくものつるぎ》が秘めた力を引き出せるようにしてやろう」

「どうするのだ」

「慈悲の神の化身である、センジュ様なら何とかしてくれるはずだ。

 だから連れて行ってやるよ。

 めんどくせえけどな」

妖魔の力

 

 平原はどこまでも続いている。

 彼方に見えていた岩場が近づいてきた。

 恐らく1里(約4㎞)ほどは歩いただろう。

「気をつけろ。

 岩場には妖魔が棲んでいることが多い」

 源次は柄に手をかけた。

「気になっていたのだが、妖魔と鬼はどう別れているのだ」

「妖魔は異形の生物全般を指すの。

 鬼はその中でも体が大きくて生命力が強い強敵よ。

 鬼以外にも、不死の力を持った者や、幻術で神経系を攻撃してくる妖魔もいるわ」

 岩場は、近くで見ると小さな山のように|聳《そび》え立っている。

「剣だけでは対抗できない妖魔がいることはよくわかった。

 こうしている間にも、そんな敵が現れるかもしれん」

 一瞬空に目をやった。

「んっ」

 激しい上昇気流に|煽《あお》られ髪が逆立ち身体が回転し始めた。

 しばらく状況を|掴《つか》めず、されるがままになっていた。

「違う!

 落ちている! 」

 両眼をカッと見開き、地面を探す。

 だが、どちらも朱い空があるばかり。

 体は縦横に回転し続け、もがくと余計に|平衡《へいこう》感覚を失いそうだった。

「ぐうううっ

 アシュラ!

 ヤシャ!

 無事なら返事をしてくれ」

 大きな風切り音がするばかりで、返事はない。

 落ちているなら、どこから?

 地面まであと何秒ある?

 頭をフル回転し、必死に周りを見まわすが何も見えない。

「まずい! まずい! まずい! 」

 恐怖が早口に、大きな声で叫ばせる。

 死を目前にしていることだけは確かだ。

 何かしなくては。

 状況を打開する何かを。

「源次殿!

 聞こえますか。

 落ち着いて。

 体をまっすぐにして、目を閉じてください」

 聞き慣れない声がする。

 言われた通りにする以外なさそうだ。

 観念して体を伸ばし、目を閉じた。

 耳には相変わらず激しい気流の音。

 死の不安がさらに大きくなり、歯を食いしばる。

 全身に力を込め、姿勢を維持しようと必死に風と格闘した。

朱色の空

 

 突然呻きながら倒れ、身体をバタつかせる源次をよそに、2人は岩場を睨みつけていた。

「闇雲に剣を抜かなくて助かったな」

「源次さんも死線を越えてるからね」

「|幻鬼《げんき》を探さなくては── 」

「私が源次さんの傍にいるから、お願い」

 ヤシャは小さくうなずくと、走り去っていった。

「こうなると、自力で脱出するか幻鬼を倒さないといけないのよね」

 脂汗をかき、苦悶の表情が濃くなってきた。

 苦しみや痛みが長く続けば、精神的に疲弊するばかりか身体症状もでてくる。

 やっかいな敵である。

「アシュラ。

 どこにも見当たらない。

 そっちへ行くかもしれないぞ」

 ヤシャの声がした。

 油断なく岩場へ向けて印を結ぶ。

 不意に、源次が立ちあがった。

 目を閉じたまま、反対側の平原へ向けて構え、腰を落とす。

「源次…… さん? 」

 次の瞬間、刀を抜き地面に突き刺した!

「ぐあああ! 」

 背丈の5分の1ほどの小さな妖魔が串刺しになった。

 光の炎に包まれた妖魔は、崩れて灰になっていった。

 意識がない源次は崩れ落ちた。

「大丈夫!? 」

 源次を抱き起こすと、微かに目を開ける。

「ああ。

 ここは現世かあの世か── 」

 |憔悴《しょうすい》しきった声だが、意識を取り戻していた。

「源次さん。

 ここは、地獄よ」

 剣を地面に突き立てたまま、膝立ちになった源次は周囲を確認しアシュラを見た。

「違いないな。

 また生き延びてしまった」

 戻ってきたヤシャは、源次に尋ねた。

「どうやって、幻術を破ったのだ。

 法力を使えない人間に、できる芸当ではないぞ」

 ぼんやりとした意識の中で、起こったことを思い出す。

「空から落ちる幻術だった。

 死の恐怖の中で、聞き慣れない声がした。

 その通りに落ち着いて姿勢を保ち、剣を抜いたのだ」

 ヤシャは安堵の表情を見せる。

「きっと、センジュ様の声だな」

慈悲の化身

 

 歩きだした3人は、センジュとの合流地点に着いた。

「大分、落ち着いたようね」

「まだまだ、これしきで参っていては足を引っ張るばかりだ。

 気合いだけは負けぬ」

 頬がこけた源次の眼光だけは鋭かった。

「センジュ様。

 キッショウ」

 女性2人が近づいてきた。

 髪が長く、穏やかな表情のセンジュは源次に駆け寄り、手をかざした。

「オーン──

 ウン マリ ママリ シユマリ シエマリ ゴゴマリ バッタ──

 来たれよ、召請光童子! 」

 光が源次を包み、心が和らいでいくのを感じた。

「源次さん。

 私は慈愛の神 千手観音の化身、センジュです。

 あなたは、剣の神 |摩利支天《まりしてん》の加護を受けています。

 ニッコウ様のお導きに従って、マントラを会得することができるでしょう── 」

 穏やかに微笑みながら、包み込むように光を放っていた。

 一瞬たりとも気を抜けなかった源次は、崩れ落ちるように膝立ちになった。

「ありがとうございます。

 幻鬼の術を解くことができたのは、センジュ様のお導きのお陰でした」

 センジュの後ろに控えていた、キッショウが言った。

「センジュ様は、金剛高野山の|中僧都《ちゅうそうず》にして推定法力値25,000でいらっしゃいます。

 私はキッショウ。

 法力値1,600です。

 このヤシャは、金剛夜叉明王の化身にして、法力値3,200です。

 ニッコウ様からお話は聞いていました。

 共に力を合わせ、戦いましょう」

「さあ、今日のところはニッコウ様の元へお帰りください。

 近いうちに本格的な戦いが始まります。

 修行を怠らぬように」

 現世へ帰った源次は、泥のように眠ったのだった。

 

 

この物語はフィクションです