魔法のクリエイターと言われる理由、お教えします

人は知る。人は感じる。創作で。

パスワードについて

 ミステリー小説を書くために

 パスワード破りの方法を調べたことがある

 ローマ時代には、ズボンのベルトに規則的な位置に記号を書き

 それを丸棒に巻きつけると読めるものが使われた

 それが普及すると使えなくなったので

 文字の置き換えをして

 一目見てもわからないようにする手法が現れた

 いわゆる文字化けして読めない暗号のような文章でも

 破る方法がある

 言語によって

 出現率が高い文字と

 低い文字が特定できるため

 確率論で割り出せる

 この手法はシャーロックホームズシリーズでも出てきた

 1時間ほどあれば

 かなりのところまで暴けた

 一般に出回っている

 パスワードにしそうな単語や数字リストを作成するアプリもある

 破られにくいようにするため

 ハッシュ関数を用いて変換したり

 文字数(桁数)を増やしたり

 文字と数字と大文字小文字を組み合わせるなどしているが

 コンピュータのスペックが上がり

 ビッグデータやAIを活用したり

 破る側と破られる側のイタチごっこをしている

 最近は

 技術が高度化したため

 パスワード破りを考える前に

 人から聞き出すことを考えるようだ

 情報漏洩や仮想通貨盗難事件を調べると

 人間が

 セキュリティの脆弱性そのものだ

 一応追記して置くが

 パスワードを破る行為自体が刑事罰の対象になりうる

 くれぐれも

 いたずらでもやらないようにしてください

【ショート小説】桃太郎 と 雪女

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 むかし、むかし。

 山奥に桃太郎という心優しい少年がおりました。

 おじいさんは山へ芝刈りに。

 おばあさんは川へ洗濯に。

 桃太郎は剣術の稽古に精を出しておりました。

「おお。桃太郎や。今日も頑張っとるのぅ…… 」

 おじいさんは桃太郎に声をかけ、壁に掛けてある一振りの木刀を手に取りました。

「ほっほっほ。今日は気分が良いから稽古をつけてあげよう。さあ。かかってきなさい」

 左手一本で木刀を振り上げ、桃太郎に切っ先を向けるとニッコリと蕩けるような笑顔を向けました。

「はい。ありがとうございます。おじいさん」

 直立不動になった桃太郎は、おじいさんに最敬礼をしました。

 そして嬉しさのあまり、木刀を2本持って2刀流の構えをとりました。

「いざ! 」

 おじいさんは眼光鋭く、桃太郎の切っ先に目をやると、一本を叩き落としに来ました。

 そりゃあああぁ!!

 カッ!!

 凄まじい斬撃が桃太郎の左手の木刀を払い、キリキリと舞いながら壁まで吹き飛んでしまいました。

 ガン!

 壁にブチ当たった木刀は地面に落ち、また静寂が2人の間に流れるのでした。

「くっ…… 」

 一撃を受けた衝撃が、桃太郎の左手をジンジンと痺れさせていました。

 もしも手に当たっていたら、骨が砕け散っていたかもしれません。

「桃太郎。剣は優しく握るものじゃ。お前は心優しいわりに、剣には優しくないのぅ…… 」

 おじいさんは意味深げに、剣術を教えようとするのですが、桃太郎には意味が良くわかりませんでした。

「おじいさん。優しく握ったら、すっぽ抜けるのではありませんか? 」

 つい思ったことを口にしてしまい、自分が全然理解していないことを露呈してしまいました。

「修行が足りぬのぅ…… 桃太郎や。物事に、謙虚な姿勢で臨まなければ、得るものが何もなくなるのじゃ。なぜお前にはそれがわからぬ…… 」

 おじいさんは、ため息交じりにがっかりした顔で言うのでした。

「すみません。せっかく久しぶりに手合わせしていただいたのに。もう一度桃の中に戻りたい気分です」

「いいんじゃ。お前のそんな愚かさが長所でもある。自分の限界を知り、すぐに反省できるところは良いところじゃよ」

「では、一撃合わせさせていただきます」

 桃太郎は身体を横にひねり、半身の姿勢を取ると、身を沈め、刀身をおじいさんから見えないように後ろへ向けました。

「ふむ。剣気が強くなったのぅ…… 」

 おじいさんも、桃太郎と同じように半身を切って、身をかがめました。

「桃太郎や。空気を断つのじゃ。人を斬ると思うな…… 『虚空を斬り、手応えあれば極意なり』じゃぞ」

 そう言いながら凄まじい気迫を込め、木刀の柄に右手をかけました。

「木刀じゃから、真剣のような閃きは出ないがのう。居合抜きをやってみなさい…… 」

「おじいさん。僕も日々精進して、成長したところをお見せしましょう…… 」

 桃太郎は汚名挽回するべく、ありったけの気合いを込めて、剣を抜くタイミングを測っていました。

「ふう…… この態勢は膝に響くのぅ…… 」

 おじいさんは、一瞬自分の足を見てしまいました。

 その一瞬を、アドレナリンがいっぱい出ている桃太郎は、見逃しませんでした。

 ちいええぇい!!

 ちょっと情けない声で気合いを掛けると同時に、右足を大きく踏み出し、木刀をめいっぱい振り抜きました。

「ほほっ! ほ~い! 」

 余裕でかわしたおじいさんは、木刀を振り抜いて、ガラ空きになった桃太郎のどてっ腹へ、抜き放ちました。

 ドカッ!!

 容赦ない一撃が桃太郎の腹に食い込みました。

「ぐええぇっ!! 」

 胃液を吐いて崩れ落ちた桃太郎を、おじいさんは見下ろして言いました。

「桃太郎や。いつもひたむきに稽古しているのに強くならないのう。それはのう…… 1人で稽古していいるからじゃ。強くなりたければ、強者と共に修行しなさい。すでに剣術に明るい知人に文を送った。今日あたり来ると思うから、共に修行しなさい」

「はい。ありがとうございます。おじいさん」

 腹の痛みに耐えながら、桃太郎はまた上下振りを始めました。

 

 その日の昼頃、美しい娘が桃太郎を訪ねてきました。

「ごめんください…… 桃太郎さんはいらっしゃいますか? 」

 肌は透き通る様に白く、白い着物に身を包み、髪と眸は青く光っています。

 この世のものとは思えないほど、輝いていて、まるで天から舞い降りたような神々しさでした。

「あ…… あの…… 桃太郎は僕です。すみません」

 一目見ただけで気後れした桃太郎は、なぜか謝るべきだと思ってしまいました。

「私は雪子と申します。桃太郎さんと、一緒に剣術の稽古をするようにとの、一刀斎様からの言いつけで参りました」

「ええっ! 女性の方だったのですね。しかも、こんなにお美しい…… 」

 すると、おじいさんが家の裏からやってきました。

「おお。雪ちゃん。遠いところ済まなかったのぅ。この桃太郎に、稽古をつけてやってくれんか。ワシがやると、勢い余って殺してしまいかねないのでのぅ…… かっかっか! 」

 おじいさんは明るく高らかに笑いながら、怖いことを言いました。

「鬼神のごとく強く厳しい、一刀斎さまの『殺してしまう』は、まことの言葉にしか聞こえません。聞けば、桃太郎さんは将来大きな任務を控えた大切なお方。世のため人のため、私が微力を尽くし、立派な武士にして差し上げましょう」

 すると、おばあさんもやって来て、言いました。

「桃太郎や。イイ女じゃろう…… ひひひ…… お前の嫁にどうじゃ」

 純情な桃太郎は、顔を赤くして俯いてしまいました。

「おおっ。顔に出たのぅ。おばあさんや。ついでに祝言を上げてしまおうかのぅ」

「ええっ。私は…… 」

 雪子は何か言おうとしましたが、おじいさんと、おばあさんの勢いに負けてしまいました。

 話はとんとん拍子に進み、麓の村中に言いふらされてしまい、村人たちがお祝いの品を持って押しかけてきました。

「いやあ。桃ちゃんもいよいよ所帯持ちだなぁ。こ~んなに小さかった童が、いつのまにかなぁ」

「めでたい! 飲めや歌えや! 」

 ドンチャン! ドンチャン!

 にわかに始まった宴会は、夜遅くまで続きました。

「めでたいのぅ…… ところで、桃太郎。雪子。子どもは何人にするんじゃ? 」

 酒が入ったおじいさんは、結婚したばかりの2人にストレートに聞いてきました。

「そうだえ。老い先短い年寄りに、早く孫の顔を拝ませておくれ…… 」

 おばあさんも、満面の笑みで2人に聞いて来るのでした。

「ははは…… 」

 夫婦になった2人は笑い合って、ごまかしました。

 日付が変わるころ、宴会が終わりました。

「桃ちゃん。雪ちゃん。幸せにな。麓の村にも遊びに来ておくれ」

「村を襲いにくる鬼をやっつけておくれ」

「ここに来られない子どもや年寄りに、紹介させておくれ」

 三々五々となった村人たちは帰って行きました。

「雪ちゃん…… さっき鬼をやっつけるって、誰か言ってなかったかな…… 」

「気のせいよ」

 翌朝、日の出前に起きた2人は、早速山に籠って剣術の稽古を始めました。

「桃さん。まずは構えてみてください」

「はい。雪ちゃん」

 木刀を持って、青眼に構えました。

「ああっ。こんなに強く握りしめてはダメです。小指と薬指でぎゅっと締めたら、他の指は軽く添えるようにします」

 雪子の指導は、具体的で理解しやすいものでした。

 妻であり、良い師でもある雪子を得た桃太郎は、今まで努力しても開花しなかった才能を存分に見せ、めきめき頭角を表わしていきました。

「いいよ。すごくいい。雪ちゃんの指導は的確で、どんどん強くなるのがわかるよ。おじいさんの言うことは、良くわかんなくってさ…… 」

 こんな日々が2年続き、その間に2人は子どもを授かりました。

「ああ。幸せだなあ…… 」

 桃太郎は、家族を得て充実した気分で毎日を過ごしていました。

 そんなある日。

 麓の村の村長がおじいさんを訪ねてきました。

「一刀斎様。村は度々鬼の襲撃を受け、財産は皆持って行かれてしまいました。どうか。どうかお力添えを。村を救ってくださらんか」

 すがりつくようにして、お願いする村長を冷たい眼で見下すように、おじいさんは言いました。

「一刀斎と呼ぶんじゃないよ。ワシはただのおじいさんじゃ。鬼と戦うなんで、気軽に言うけど、ワシに命を捨てろと言っておるんじゃぞ。人に死ねという権利が村長にはあるとでも言うのか! 」

 おじいさんは一喝して、村長を外に叩き出しました。

 主張は正当なもので、村人がいかに困っているからと言って、腕の立つ人にお土産もなしに、お願いするのは愚の骨頂でした。

「はっ! そうか。手ぶらではいかんかった! 」

 村長は村へ引き返すと、若い者にリヤカー一杯の財宝を持って来させました。

「一刀斎様。先ほどは気付きませんで、大変失礼いたしました。これをお納めください…… 」

「ふむ。さすが村長。村人に内緒で、こんなに隠し持っていたのじゃな。そちも悪よのぅ。考えてやらんでもないぞ…… 」

 おじいさんは態度を一変させました。

 一部始終を見ていた桃太郎は、少し人間不信になりました。

「雪ちゃん。この展開は、僕たちも鬼退治に行くのかな…… 」

「一刀斎様の命令とあらば、従うわ」

 雪子は武士の心を持っています。

 主君の命令には、死を賭して従うのでした。

「僕は、戦いとか、あまり好きじゃないんだよなぁ」

「桃ちゃんは優しいからね。でも、戦うべきときに背中を向けるのは、優しさではないわ! 」

 雪子がきっぱりと言い切りました。

 桃太郎は、心をえぐられるほどの衝撃を受けました。

「うっ! そうだ…… その通りだ。雪ちゃん。僕は、危うく卑怯者になるところだった。困っている人を見捨てるなんて、僕にはできないよ」

 雪子は桃太郎を抱きしめ、言うのでした。

「それでこそ、この雪子の夫です! もちろん私も行きます。鬼が何人いようとも、一刀斎様がいれば怖くないわ。一刀斎様こそが最強の鬼だから! 」

「こほん! 」

 1間しかない家なので、一部始終をおじいさんとおばあさんも、聞いていました。

「雪子。桃太郎。ワシは行かん。お前たち2人で鬼を蹴散らしてきなさい」

「ええっ! 雪ちゃんはともかく、僕は鬼と戦うなんて…… 」

「はぁ。情けないのぅ…… ワシの鍛え方が、ちょっとばかし、足りなかったかのぅ…… ならば、ワシが全力でお前を鍛え抜くのと、どっちが良い? 」

 どちらにしても死にそうでした。

 桃太郎は、こんな展開になることを予想できなかった、自分の浅はかさを恥じました。

 どうせ逃げられっこありません。

「行く! 鬼と戦うよ! 茶目っ気だってば! 」

「よし! ちょっと待ってなさい」

 おじいさんは、家の裏に行くと、剣を2振り持ってきました。

「これは『国定』という名刀じゃ。岩をも断つと言われる斬れ味と、剛健な刀身が特徴じゃ。鬼の金棒を受けてもびくともせんじゃろう。持って行くがいい…… 」

「これで、いよいよ逃げられなくなったね」

 桃太郎は、死を身近に感じました。

 

 翌日、桃太郎と雪子は、村人が貸してくれた木製の立派な船に乗り込みました。

「僕たちもお供します。わんわん! 」

「犬吉、猿男、雉乃もお供に連れて行ってください。言うことを聞かないときは、この『キビ団子』を1個やれば大人しく従います」

 村長が3人の従者と、団子が入った包みを手渡しました。

 5人は船に乗り込みましだ。

 犬吉が櫂を持ち、漕ぎ手になった。

「では。ご武運をお祈りしております」

 村長は、そう言うと、犬吉の方に目くばせをしました。

「頑張れよ~ 」

「雪ちゃ~ん! かわいい! 」

「夕飯までには帰れよ~ 」

「いよっ! 日本一! 」

 村人たちの激励を受け、鬼が住むという、鬼が島へと漕ぎ出しました。

 海は穏やかでしたが、船に乗ったことがない桃太郎は、すっかり船酔いしてしまいました。

「げええええぇぇ…… 」

 朝ごはんをすっかり吐き出すと、ぐったりとして、うずくまっています。

「船は、もう嫌…… 」

 1時間ほどで鬼が島の砂浜に船をつけることができました。

 船を引っ張り上げると、桃太郎はへとへとになりました。

「もう無理。ほら! 足がガクガクしてるよ」

 4人は懸命に桃太郎をなだめました。

「桃太郎さん。もう鬼が島です。いつ鬼が襲ってきてもおかしくありません。今、雉乃が偵察に行っています。なんとか戦闘ができるように、頑張ってください」

 猿男は背中をさすってくれました。

 犬吉は、船の漕ぎ手をしていたので、一休みしていました。

「ありがとう。少し落ち着いてきたよ。なんか腹減ったなぁ…… そうだ! キビ団子があったな! 」

 桃太郎は、村長さんにもらったキビ団子を、むさぼり食いました。

 ムシャムシャ……

「ああ。うまい! うまい! いい味出してるねぇ」

 犬吉も、猿男も、大好物のキビ団子を、桃太郎が食うさまを、よだれを垂らして見守っていました。

「ゴクリ…… 」

「俺たちの、キビ団子が…… 」

 とうとう、全部平らげてしまいました……

「うっ! げええぇっぷ! 」

 そこへ、雉乃が帰ってきました。

「桃太郎さん。雪子さん。この先に鬼の根城があります。突入しますか? 」

「そうね…… 」

 雪子は考え込みましだ。

 何人いるか、武器などの戦力がまったく分からない相手に対して、正面から向かっていくのは愚かです。

 様子を見て、一人ずつおびき出せれば、勝つ確率が上がります。

「よし。突入だ! 」

 キビ団子を食べて元気になった桃太郎が、言い放ちました。

「ええっ! ちょっと、桃さん! 」

 目を輝かせて、国定を握りしめると、一人で駆け出して行きました……

「あのキビ団子、何か入ってない? 」

 丘の上に、鬼の形をした城がありました。

「ここだなぁ! 鬼たちよ! 桃太郎がきたぞ! 村から奪った財宝を返せ!!! 」

 大声で怒鳴ると、門番らしい赤鬼と青鬼が、桃太郎めがけて走って来ました。

「何だこいつは! 村の手先か! 一ひねりにしてくれるわ! はははは!! 」

 鬼は5メートル近い背丈があります。

 手には、棘がたくさんついた金棒を持っていました。

 赤鬼が、金棒を振り回してきました。

 桃太郎は、国定を構えると金棒を跳ね上げました。

「むむっ。こいつ、なかなかやるぞ! 」

 赤鬼は青鬼と並ぶと、同時に金棒を振り下ろしてきました!

「うわっ。2本はまずい! 」

 たまらず桃太郎も引き返し、4人と合流しました。

「桃太郎さん! 正面から行くからこうなるんですよ! ウキー! 」

 猿男が、桃太郎を責めました。

「そうですよ。何も戦略を立てずに突っ込むなんて、犬以下ですよ! ワンワン! 」

 犬吉は怒っています。

「私たちの、命を預かっているという自覚を持ってください! ケンケ~ン! 」

 雉乃が諭しました。

「うう。皆。面目ない…… 」

 桃太郎はリーダーには、向いていないようでした。

 その時、

「きゃああぁぁ!! 」

 雪子の悲鳴が聞こえました。

 振り返ると、青鬼が雪子の腕を持って吊るし上げていました。

「いやああぁ!! 息臭い! ワキガ臭い! 」

 必死に抵抗しようとする雪子は、あまりの悪臭に失神しそうでした。

 青鬼が口を大きく開けました。

「うわあぁ! 口臭い! 死ぬ!! 」

「うまそうな娘だな! いっただっきま~す! 」

 ゴクン!!

 なんと! 丸飲みにされてしまいました。

「うん! 人間は『踊り食い』が一番だね! 」

「ずるいなあ。一番おいしそうな女を…… 」

 赤鬼は、雉乃をロックオンしました。

「俺はあの女をいただくぜ! 」

 勢いよく駆けて来ます!

「うわああぁ! 桃太郎さん! やっつけてくださいよ! 」

「何だよ! 犬吉も戦えよ! 」

「地獄の沙汰も、キビ団子次第ですよ! 命を捨てるのはご免です! 」

「猿男! 」

「僕は武器を持ってないんですよ! 」

「お前ら何しに来たんだ! 」

 とうとう仲間割れを始めました。

「きゃああぁぁ!! 」

 雉乃は、赤鬼に吊るされ、今にも飲み込まれそうになっています。

 その時です。

「あれ? 青鬼!!! 」

 見れば、粉々になった青鬼が、転がっていました。

「ひゅうぅぅぅ~!! 」

 雪子は目が吊り上がり、牙が生えた化け物に変わっていました。

「ま。まさか…… 」

 赤鬼は雉乃を放し、後ずさりを始めました……

「そう。私は雪女なのよ。臭い息かけるんじゃないよ! 」

 怒りの表情で、赤鬼との間合いを一気に詰めると、

「ひゅうぅぅ!!! 」

 息を吹きかけると、一瞬で赤鬼の氷柱が出来上がりました。

「そりゃああぁ!! 」

 横蹴りを一閃すると、粉々に砕けてしまいました……

 桃太郎たちは、呆然として雪女が鬼を蹂躙する様子を眺めていました。

「僕たち…… 必要なくない? 」

 騒ぎを聞きつけた鬼たちが、根城から出てきました。

「ああっ! 赤鬼! 青鬼! 」

「うわああぁぁ!! 殺される!! 」

「バケモンだぁ! 」

 雪女は鬼たちを見据えながら、根城へ向かってゆっくり歩いて行きました。

 ひときわ大きな黒い鬼が、最後に出てきました。

 鬼たちは、何やら話し合っている様子です。

「あ…… あのぅ…… 雪女さん…… ですか? 」

「そうよ。次に死にたいのはあなたかしら? 」

 雪女は、すっかりスイッチが入っていました。

「いやいやいやいや…… !!! 」

 鬼は皆両手を広げて空へ向かって、大きく上げました。

 そしてその手を地面につけ、頭を地面にこすりつけています。

「この通り! 降参じゃ! 雪女様に盾突くのは愚か者がすることじゃ! 何なりと、お申し付けください…… 」

 鬼は一人残らずひれ伏してしまいました。

 雪女は蔑むような、冷たい眼で鬼たちを睨みつけました。

「この! 業突く張りの! 穀潰しどもが! 人様の物に手を付ける極悪人どもめ! 」

 と罵りました。

「はい。その通りでございます! 」

「ハハアアァア! 」

 全員が声を出し、雪女を崇めるポーズをとりました。

「お前たちに、1つ約束をしてもらう! 」

「はい! 何なりと! 」

「私の正体を絶対に喋らないこと。もし喋ったら、命をもらいに来ます…… 」

「ハハハアァァァア! 仰せのままに! 」

 

 こうして、桃太郎一行は、村から奪われた財宝を船に積んで帰りました。

 村人たちは、桃太郎と雪子をねぎらい、宴会を開きました。

 宴会は3日3晩続き、桃太郎は村の英雄になりました。

「桃太郎! 万歳! 」

 

 山奥の家に戻った桃太郎は、雪子と幸せな生活を送りました。

 真相を知るものは、鬼が島に行った4人と鬼たちだけです。

 もちろん雪子は真相を語りません。

「桃太郎や。お前も強くなったのぅ…… 」

 おじいさんも、安心して桃太郎を無理に鍛えようとするのをやめました。

 その後、桃太郎と雪子は5人の子どもを授かり、合計6人の子どもを2人で育て上げましたとさ。

 めでたし、めでたし。

 

 

この物語はフィクションです。

シュークリームについて

 英語でシュークリームというと、靴のクリームになる。

 これは和製英語である。

 スーパーで、よくヤマザキのシュークリームを買って食べるが、最近専門店が進出してきた。

 そのシュークリームはカリカリに素地を焼いているので、クリームが引き立ってとてもおいしかった。

 量販店向けの商品でも、カスタード入りとか、ダブルでたっぷりクリームが入っているものが目につく。

 自分が子どもの頃は、クリームが半分くらいしかないスカスカのシュークリームを良く食べていた気がする。

 一人っ子なので、美味しいところは後に取って置いて、先に空間を攻めていって、最後にクリームを味わった。

 シュークリームは、おやつの王様だった。

 最近はおいしいおやつが、コンビニに行けばたくさん並んでいるので、迷ってしまう。

 自分の中の一番人気はチョコファッションである。

【ショート小説】幸せの重さ

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「はかり、買おうと思ってたんだよな」

 陽太は、スチール棚に並んでいたデジタルはかりに目を止めた。

「『わけあり、200円』って書いてある…… いくつか傷があるか。まあ、使えればいいや」

 ここは商店街のリサイクルショップである。

 所狭しと日用品が並んでいる。

 奥のショーケースには、ブランド物の時計や財布、アクセサリーがある。

 質屋と併設された、いわゆる質流れの品物を主に扱っている。

「お願いします」

 レジにはかりを差し出すと、お金を払った。

 リュックにしまい、単4電池をコンビニで買って帰った。

  東 陽太 は27歳。独身で一人暮らしである。

 雑居ビルの一角を借りて住んでいる。

 部屋はキッチン兼、リビング兼、居間兼、寝室のいわゆるワンルームで、風呂とトイレはユニットバス。

 洗濯物が干せる小さなベランダがある。

「さてと。昼飯にするか…… 最近食べすぎで、午後に眠くなるから、はかりでご飯の量をきちんと測ろう」

 ウインナーを茹でる。

 炒めるよりも、茹でた方が油を使わないし、塩分も抜けるので健康にいい。

 簡単なサラダも作った。

 いつも自炊しているので、深く考えずに作ってしまう。

 そして早速はかりに電池を入れると、茶碗を置いて電源を入れた。

「ん? 20グラム…… おかしいな。0合わせできないぞ」

 ごはんを茶碗に少しずつ盛る。

「やっぱりこのはかり、壊れてるな。20グラムから動かないや。わけありったって、使えないんじゃ話にならないな…… はあ。200円損した」

 結局、目見当でごはんをよそって、キッチンに立ったまま昼食を済ませた。

「一人暮らしだから、ついキッチンで食べちゃうんだよね…… 」

 陽太は食べ終わると、すぐに食器を洗って籠に収める。

 部屋は毎日掃除機をかけて、風呂もトイレも頻繁に拭いているのであまり汚れがない。

「ユニットだと、風呂に入りながら掃除できるから便利だな」

 こう思って、今の最低限のスペースしかない物件に決めた。

 快適さよりも機能性を重視する性格から、あまり余分なものを買わず、部屋にはパソコンと小さな折り畳みテーブル、そしてスチール棚が2脚、洗濯機があるのみだ。

「しかし、こんな不良品『わけあり』じゃなくて『ジャンク品』と書くべきだよな」

 200円とはいえ、損した気分がいつまでも抜けなかった。

 ピンポーン!

 ドアホンが鳴った。

「陽太。お菓子作ってきたの。一緒に食べましょう」

「おっ。ありがとう。どうぞ」

「おじゃましま~す」

  新田 由衣 26歳。1年ほど前から付き合っている。

 始めは喫茶店や商店街を歩いたりしていたが、お互い出不精なので、陽太の部屋でくつろぐことが多くなった。

「相変わらず綺麗な部屋ね。彼女としては、働き甲斐がないわ」

「物がないだけさ」

「あっ。はかりがある! ちょっと測らせて」

「それさぁ。俺の憂鬱の原因なんだよ」

「どうしたの? 」

「午前中リサイクルショップに行って、200円で買ったんだけどさ、壊れてやんの」

「そうなの?」

 由衣は電源ボタンを押し、持ってきたクッキーを置いてみた。

「40グラム…… そんなわけないよね」

 見た目で200グラムはあると思われる。

「やっぱりね。ほら。滅茶苦茶なんだよ」

 がっかりした顔で、ため息をついた。

「まあいいや。お湯沸かすよ」

「私がやるから座っててちょうだい」

 そう言って、紅茶を淹れてくれた。

「良い香りだね。今日はオレンジペコにしてみたけどいいかな」

「もちろん。ありがとう」

 紅茶やコーヒーにはこだわりがあって、いつもコーヒー豆や茶葉を数種類置いてある。 

「じゃあ。いただきます」

 由衣は自分のノートパソコンを取り出して開いた。

 2人は、各々パソコンをいじってゲームを始めた。

 『ラインクラフト』という、広大なバーチャル空間で、家を建てて暮らしたり、ゾンビや動物を倒してアイテムを手に入れたりして楽しむゲームである。

 このような目的を自分で決めるゲームを『サンドボックス』と呼ぶ。

 砂場遊びのように、自由度が高くて創造的な活動ができるのである。

 またプログラミング教育にも効果があるとされ、文部科学省が5年前から小学校を対象に実験的に取り入れている。

 売り上げも伝説的なパズルゲームである『テトラス』を抜いて世界1位になった。

 2人はバーチャル空間に家を建てて同居している。

「ねえ。クッキー美味しい? 」

 ゲームの中で由衣が話しかけてきた。

「美味しいよ。紅茶とよく合うね」

「よかった」

 陽太は、ふと はかり を見た。

 電源が切れていなかったので、数字が出ている。

「あれ? 50グラムになってる…… 」

 由衣が覗き込んできた。

「ホントだね。勝手に数字が変わるのは変だね…… 」

「待てよ。始めは20グラムだった。それが、さっき40グラムになって、今50グラムに…… 何か意味があるのかも知れない」

「陽ちゃんの気分が上がってきたから、数字が上がったんじゃない? なんてね」

 陽太は由衣を見た。

「まさかね…… 」

 ゲーム画面に目を移すと、赤いブロックがせり出して来るのが見えた。

「あれ? マグマかな…… 」

「大変! 家がマグマに飲み込まれるわ! 」

 ライクララインクラフト)の世界には、マグマが突然噴き出してくることが多い。

 人間がマグマに飲み込まれれば、ひとたまりもない。

「土で家を囲むんだ! 」

 2人は急いで堤防を築いた。

「ふう。何とかこれで大丈夫だろう…… 」

「ねえ。はかりはどうなった? 」

 由衣がまた覗き込む。

 数字が30グラムに下がっている。

「マグマに襲われたからかな…… 」

「…… 」

 陽太は考えた。

 はかりが壊れていて、ただ単に暴走しているだけかもしれない。

 だが自分の気持に連動して変わったと、こじつけることも、できなくはない。

「気になるな…… 」

 はかりを由衣の傍に置いてみた。

「どうしたの? 」

 数字がまた変わった。

「40グラムになった」

「由衣は、今どんな気分? 」

「楽しい気分かな」

 これが、気持を点数化しているとしたら、俺より楽しいということになる。

「もっと実験してみたいな…… 」

「それじゃあ、外に出てみない? 」

 

 2人は商店街に繰り出してきた。

「ねえ。一緒に外を歩くのって、久しぶりよね」

「そう言えばそうだね」

 陽太は、はかりを取り出した。

 人混みに入ると、数字がせわしなく変わっている。

「見てよ。数字が変わってる」

「さっきの話、もしかしたら本当に…… ちょっと貸して」

 由衣がはかりを持つと、

「70グラムだって。私ね。久しぶりに陽ちゃんと外出して、幸せな気分なの」

「待ってくれ。その話は夢があって面白いが、そんなことがあるわけないはずだよ…… 」

「そうだけどね…… 」

 ちょっとがっかりした顔をした。

 ハッとして、陽太ははかりを覗き込んだ。

「40グラムだ」

「なんか。ごめん」

「どっちなのよ…… 」

 しばらく歩くと、喫茶店で一休みした。

「ふう。外を歩くのも悪くないね」

「そうね。私はそのはかりが、気になってしょうがないのだけど」

 はかりを由衣に渡した。

「やっぱり、幸せを測っている気がするわ」

「うん。そうかもしれないな」

「あれ? 」

「どうした? 」

「0グラムだ…… 」

「え!? どういうことだい? 」

 彼女は隣を見た。

 スーツ姿の男性が、一人でコーヒーを飲んでいた。

 テーブルの一点を見つめ、顔色が真っ青である。

「ねえ。この人の『幸せの重さ』じゃないかしら…… 」

 陽太に耳打ちした。

「もし、そうだとしたら心配だな…… 様子を見よう」

 しばらくそうしていたが、その男性はスマートフォンを取り出した。

 何か操作をして、ポケットにしまった。

 そして立ち上がると、コーヒーが乗ったトレイを片付けた。

 陽太たちも立ち上がり、トレイを片付けた。

「追いかけよう」

 耳打ちをすると、2人は20メートルほど距離を置いて尾行した。

 男の足取りは重い。

 時々よろけながら、やっと歩いている感じだった。

「様子がおかしいな」

「そうね。こういう時、どうしたら良いのかしら…… 」

「今のところ、はかりの数字が気になって付いて行ってるだけだ。もう少し様子を見るしかないな」

 男はデパートに入った。

「どうしよう」

「行くしかないだろ」

 エレベーター前で待っていると、乗り込んだ。行先がわからないので2人も一緒に乗る。

 幸い買い物客が多くて、ロビー階である1階から乗る人で中がほぼ満員になった。

「これならバレにくいね」

「堂々としていよう。視線を合わせないように」

 男は屋上がある9階まで登った。

 考え事をしながら真っ直ぐ歩いている様子なので、2人が後ろにいることに気付かなかった。

 屋上へ出た。真っ直ぐに端のフェンスへ向かっている。

「まさか…… 」

「まずいな。よし! 俺に任せてくれ」

 陽太は、ズカズカと歩いて行って男の横から話しかけた。

「ちょっと、あんた。大丈夫ですか? 」

 男は立ち止まったが、俯いたまま目を合わせなかった。

 しばらく間があった。

「どちら様で? 」

 か細い声で聞き返した。

「私は 東 陽太 といいます。さっきカフェで見かけて、真っ青な顔をされているし、不幸なオーラを感じて、失礼ながら付いて来たのです」

「不幸なオーラ? へえ。妙なことを言いますね。オカルトですか…… 」

 由衣に目くばせをした。

 はかりを見せて、説明を始めた。

「私は 新田 由衣 と申します。にわかには信じられないかも知れませんが、このはかりは『幸せの重さ』を測ることができるのです」

「はぁ…… 」

「カフェで、偶然隣に座っていまして、重さが0グラムと表示されて、何か思いつめた様子でしたので陽太と一緒に付いて来ました」

「…… 」

「これから、どうするつもりだったのですか? 」

「はぁ…… 」

 大きなため息をついて、2人の方を見た。

「まったく…… 地獄の閻魔にも嫌われたか…… 死のうと思ってたんですよ。そう思って付いて来たんでしょう? 」

 少し話し方がしっかりしてきた。

 落ち着いた様子だったので、9階フロアの談話スペースへ移動した。

「お話を聞かせていただけませんか。死ぬなんて、尋常ではないです」

 席についた男は、またテーブルの一点を見つめた。

 自殺を止めることはできたが、顔色は変わらない。

 よほどの事情があるはずだ。

「はぁ…… 」

 また大きなため息をついた。

 テーブルの上には、幸せの重さを測る はかり が置かれている。

 依然として0グラムを表示している。

 このまま放ってはおけない。

「大垣 睦夫 です。はぁ…… 会社を辞めました。収入が無くなったので、死のうと思ったのです」

「…… 」

 今度は2人が言葉を失った。

 不景気の煽りで、失業者と自殺者は増えている。

 この人も、そんな不幸なサラリーマンの1人なのだ。

 どう言葉をかければいいのか思いつかなかった。

「僕は、絵に描いたようなリストラサラリーマンですよ。最後の方は、ほとんど仕事もさせてもらえず、1日中放置されて、気持的にも続けられない状況に追い込まれました」

 陽太の方を見ると、薄く笑って続けた。

「短い間でしたけどね、一生懸命働いたんですよ。毎日残業してね。段々周りの社員が辞めていって、自分の仕事量が何倍も増えていきました。それでも頑張ってこなしてきたんです。それで、次は自分の番が回ってきたんですよ…… あなたたちも覚えておくと良い。会社のために命を削っても、殺されるだけなんですよ。仕事に情熱を燃やしても、見返りなんか何一つない。僕はバカでしたね。自分に愛想が尽きました。妻にも、会社を辞めたことを言いだせず、こうして街をふらふらして、夜家に帰るんです。頭がおかしくなりそうですよ! どうです。何か言ってみてくださいよ」

「…… 」

 沈黙するしかなかった。

 陽太は一生懸命考えたが、かける言葉が見当たらなかった。

 自分では役不足で、またこの人が自殺に及ぶのではないかと思われて仕方がなかった。

 ヴヴヴ……

 不意に陽太のスマホが振動した。

 画面を見ると、由衣からSMSが送られていた。

 見ると、テーブルの下で悟られないように送ったようだった。

 文面は……

「沈黙したら、こちらも沈黙に付き合って。とにかく大垣さんに喋ってもらうのが最善の対応よ。不安な顔を見せちゃダメ」

 ちらりと、由衣を見て軽くうなづいた。

 しばらくそのまま、黙って座っていた。

 どれくらい沈黙していただろうか。

 先ほどより、迷いがなくなった分、気が楽だった。

「僕には、昨年結婚したばかりの妻がいます。お腹の中には、子どももいるんです。収入が途絶えたら、どうやっていけばいいんですか…… 出産も育児も、これからたくさんお金がかかるのに。妻は専業主婦なので、自分の収入だけ。1馬力なんですよ」

 大垣は2人を見つめた。

「そういえば、あなたたちはカップルですか? 」

「ええ。まあ。そうとも言いますね。自分でカップルだと言うのは抵抗ありますけど…… 」

 由衣が遠慮がちに答えた。

「ああ。すいません。僕は昔から、デリカシーに欠けた、気遣いができない人間なんですよ。だから、会社からも役に立たない人材だと、引導を渡されたんです」

「大変な状況ですね。想像ですけど、会社の経営状態が相当悪いのだと思います。これからもリストラは続くのではありませんか? 」

「…… 」

 また沈黙した。

「そうですね。リストラに遭っているのは自分だけではありませんよね…… すみませんでした。ちょっとお話を聞いていただいて、死ぬなんて、早まってしまったと思います。妻にきちんと話をしてみますよ」

 由衣は、はかりを大垣に見せた。

「20グラム…… ですか」

「僕が午前中に見た自分の数値と一緒ですよ。僕はそんなに不幸な人間だと思いませんが、時々気が塞ぐこともあります。そんな時には、いつでも相談してください。これも何かの縁だと思います」

 大垣の表情が、少し血の気を取り戻していた。

 2人は1階出口まで送ると、名刺を手渡した。

「このはかりは、持って行ってください」

 陽太が由衣から受け取って、差し出した。

「いやいや。そんな訳には…… 」

 笑顔を返して、手に押し付けた。

「僕たちには、必要ないです。大垣さんのような方が、ご自分を客観的に見るために測って活用してください」

 去り際に、小さく会釈を返してくれた。

「ふう…… はかりのお陰で人を一人救えたね」

「そうね。きっと大垣さんはもう大丈夫よ。そんな気がするわ」

「SMSをくれて助かったよ。正直どうしようか、こっちも青くなってたんだ…… 」

「私の方が、後ろにいたからね。とっさに厚生労働省のHPで調べたの。メンタル系は、専門家の説明を調べるのが一番だからね」

「俺も、励ましたりして、本人が笑顔を見せても、反対の行動を取ることが多いって聞いてたからさ。『最近元気になったな、と思ったら自殺しました』って話、良くあるらしいんだよ」

「ちょっと疲れちゃった」

 陽太の部屋に戻って、またライクラを開いていた。

 ヴヴヴ……

「あれ?」

 SМSだ。知らない番号だった。

「誰だろう…… 」

 内容はこうだった。

「大垣です。

 先ほどはありがとうございました。

 妻に話したところ、薄々気付いていてどう切り出したらいいか、迷っていたそうです。

 毎日顔を合わせているのだから、解っていたと言われました。

 本当に、馬鹿なことを考えていたと思いました。

 お2人に、妻もぜひご挨拶したいとのことでした。

 もし可能であれば、今すぐに伺いたいのですが」

「えっ。今すぐ? 」

 ヴヴヴ……

 今度は電話だ。

「もしもし。大垣です。先ほどはありがとうございました。お陰様で、妻に話してすっきりしました。お近くにお住まいのようですので、今から伺ってよろしいでしょうか」

「安心しました。では、お待ちしてます…… 」

 通話を切った。

「今すぐ来るの? 」

「そうみたい」

 

 ピンポーン!

 ドアホンが鳴った。

「こんばんは。大垣です」

「どうぞ」

 ドアを開けると、夫婦で入ってきた。

「妻の実憂です。主人を助けていただいたそうで…… 何とお礼を申し上げたら良いのか…… 」

 涙をハンカチで拭った。

「お2人に出会わなければ、どうなっていたか…… 本当にありがとうございます」

「これ。僕にはもう必要なくなったようです。お返ししますよ」

 100グラムになっていた。

「これから、2人でアルバイトをして当面は何とか凌いでいくことにしました」

「そうですか。良かったです。おなかの赤ちゃんも大事にしてくださいね」

「夜分失礼しました。また改めて、お礼に伺います」

 大垣夫婦が帰って行った。

 

 またライクラを始める。

 由衣がキッチンに立ち、夕飯の支度を始めた。

 しばらくゲームに没頭していたが、ちらりと はかり を見た。

 200グラム……

「由衣。人助けをすると、幸せを分けてもらえるみたいだね」

「私も、とっても幸せな気分よ」

「なあ。一緒に暮らさないか? 」

 由衣が振り向いて、笑顔を向けた。

「嬉しいわ…… 」

 

 

この物語はフィクションです