大きなバッグを抱えて、地下鉄に乗った紀香はよろけながら座席に腰かけた。
都内にある美容学校で、ネイリストの講義と実習を依頼されたためである。
美容系の中でもネイリストには夢がある。
楽しくネイルをデザインして、収入になればどんなに楽しいだろう。
そんな夢を抱く若者たちに、現実を見せる仕事である。
「うわあ、かわいい」
キャピキャピして、楽しそうにデコりまくる学生たち。
プロになるまでの道のりは果てしなく遠いだろう。
恐らく小躍りして喜んでいる学生は3年以内に転職することになる。
だが、そんな思いはおくびにも出さず、丁寧に説明した。
挨拶、名刺の渡し方など、基本的なビジネスマナーを教えると、少々つまらなそうな顔をされる。
だが紀香は淡々と低姿勢で学生に接した。
「皆さん、立派なネイリストになってください」
帰りの地下鉄駅で、思わずため息が漏れた。