魔法のクリエイターと言われる理由、お教えします

人は知る。人は感じる。創作で。

【小説】不香の牡丹(ふきょうのぼたん)

11月に入ると、街のあちこちにクリスマスツリーを飾り始めた。サンタクロースは、世界各地に飛び本格的に活動を始める季節である。若いヴォリアラ・パクスロは、日本の子どもたちに夢を与えるために現れた。観光地や都市部のデパートで引っ張りだこの「本物」を、子どもたちは様々な思いで見ていた。サンタ服を身にまとい、プレゼントを渡す。記念写真を撮って握手やハグを求められる。極寒の雪深いフィンランドからやってきたパクスロは、優しい思い出を配るために日夜活動していたのだが ───

 

 朝夕の冷え込みが厳しくなるころ、街のあちこちがクリスマスに彩られる。

 緑の|樅木《もみのき》を模したツリーは、一説には永遠の命を象徴した神聖な木と言われている。

 キラキラとした金属質の球体や星、雪を被った家などを飾ると、緑とのコントラストで金銀と赤、そして白い雪が映える。

 LEDのイルミネーションが彩りを添え、気分を高めてくれる。

 子どもたちは、ツリーに駆け寄り写真を撮り、今年のプレゼントの話に花を咲かせていた。

 家族連れがデパートの前に来て、ショーウインドウのトナカイとツリーに目を留めた。

「もう、こんな季節ね」

「寒くなるわけだな」

 誰もが目を奪われる、華やかなクリスマス。

 そして、クリスマスソングが気分を高めてくれる。

 そんな、笑顔と話し声に満たされた、輝く街を独りで歩く子どもがいた。

 行き交う人が途絶えた瞬間を狙っていたのか、勢いよく入口に近づいてきた。

「綺麗だなあ」

 少年は、大人の背丈の半分ほどしかなかったが、精一杯伸びをしてショーウインドウを覗き込む。

 目を輝かせ、チョロチョロと走り回ってはしゃいでいた。

「あら、かわいい|坊《ぼっ》ちゃん。

 パパとママは」

 若い娘が身をかがめて声をかけた。

 グレイの瞳に、輝く金髪をなびかせてスラリと背が高い。

「うわあ、サンタさんだ」

 彼女は赤いサンタスーツを着こなしていた。

 胸元とスカートに白いファーがあしらわれている。

 均整の取れた、しなやかな身体にフィットして、道行く人がこちらを見ていくのがわかった。

「お姉さんはね、サンタガールよ」

 少年の顔がパッと明るくなった。

「そうだね、お姉さんだもんね」

 6歳とは思えないほど、しっかりとした受け答えだった。

 痩せた身体に擦り切れた服。

 エルマは違和感と同時に、哀れみを感じた。

「もしかして、独りで来たのかな。

 小さいのに、偉いね」

「うん。

 僕のパパとママは、死んじゃったんだよ」

 明るく答えた。

 あまりのことに、エルマは両手で口を押え、目を見開いた。

「ごめんなさい。

 お姉さん、知らなくって。

 プレゼントをあげるね。

 一緒にきて」

 少年の手を取り、デパートの中へと消えていった。

 

 アパートを改造した児童養護施設「アニティホーム」で暮らす|折島 祐樹《おりしま ゆうき》は、落ち着きがあってよく笑う子どもである。

 同室の4人と一緒に、リビングへ食事を摂りに行くところだった。

「さあ、お腹が空いたでしょう」

 職員のおばさんが、ご飯をよそってくれた。

 子どもたちは、ワイワイ騒ぎながら食卓に運んで行く。

 白くて大きな長机を部屋の中央に設え、カウンターキッチンから自分のランチョンマットに乗せていくのである。

 ご飯と味噌汁、そして焼き魚。

 |贅沢《ぜいたく》はできないが、生きていくために最低限必要な物は与えられていた。

 スマートフォンも、持っているからゲームもできるし調べ物もできる。

 一日のスケジュールは、きちんと決められて、たくさんの決まりごとがある。

 これも集団生活のために必要なことだった。

 親に暴力を振るわれたり、捨てられたりした子どももいる。

 そんな子どもたちにとっては、このホームが安息を与えた。

「ゆうちゃん、マジカルバナナしよう」

「うん、ご飯食べたらね」

 小さい幼児はおばさんにだっこをせがんで、足元にまとわりつく。

 ベビーチェアで、|涎《よだれ》かけをして手づかみ食いする子もいるし、ミルクを飲む赤ん坊もいる。

 みんな兄弟のように、助け合いながら暮らしていた。

 同室のかんちゃんが、魚を半分皿によこした。

「僕、食べたくないんだ。

 半分食べてよ」

 痩せた身体で、いつも青い顔をしている。

 かんちゃんは親から暴力を受けていた。

 食事もろくに与えられず、衰弱していたところを保護されて来たのだ。

 子どもは親を選べない。

 育児放棄された子どもも少なくない。

 祐樹の心には、小さな火が灯っていた。

 将来は、悲しい思いをする子どもを救う仕事がしたい。

 無邪気に笑う仲間たちを見て思うのだった。

 

 フィンランドのサンタ村でも、本格的な冷え込みが始まった。

 こちらはマイナス数十℃になるほどである。

 木々には雪が貼り付き、風花が舞う。

 コートのような起毛のサンタスーツは、見た目以上に暖かい。

 今年も若いサンタたちがプレゼントを用意するため忙しく出入りしていた。

「パクスロ、今年はどこへ行くんだ」

 白いひげを蓄えた、先輩サンタが尋ねた。

「日本です。

 これから下見を兼ねて、ファンサービスに行ってきますよ」

「そうか、ご苦労さんだな。

 確か、新入りを連れて行くんだっけ」

「そうです。

 ラウティオさんのとこの、エルマちゃんを連れて行けと言われてます」

 女のサンタクロースも年々増えてきた。

 サンタガールを地でいくエルマは、どこへ行っても注目の的である。

 彼女は|橇《そり》にトナカイを|繋《つな》いているところだった。

 オンラインでゲーム機やぬいぐるみを予約して、伝票をまとめていたパクスロは、真っ赤なファイルに閉じ込んで書類棚に差し込んだ。

 外は真っ白な雪に覆われ、風も強いようである。

 手首に取り付けた機械を確かめ、ボタンを押す。

 光と共に彼は消え、橇の上に現れた。

「私も早くパルムを使ってみたいな」

 パクスロの手首を指さして、エルマが目を輝かせた。

 顔をくしゃくしゃにしてパクスロが笑うと、彼女も橇に乗り込む。

「さあて、楽しい旅の始まりだ。

 トナカイさんたち、日本まで頼むよ」

 空高く舞い上がると、ひときわ大きな光を放って彼らの姿が|掠《かす》れて消えていった。

 デパートの裏手に降りると、2人はトナカイを帰して歩きだした。

 クリスマスイブの夜に、プレゼントを効率よく届けるために現地の人たちの暮らしを知っておく必要があった。

 サンタクロースは世界で最も有名な非営利事業である。

 日本には|煙突《えんとつ》のある家などないから、最新技術を駆使して屋内に移動し、騒ぎを起こさないように戻らなくてはならない。

 パクスロの手首に取り付けた機器こそが「時空間物質転送装置」であり、パルスビームと呼ばれ、通称「パルム」と言うのである。

4

 

 デパートの8階にある、イベントスペースに「フィンランドからやってきたサンタと記念写真を撮ろう」と大きな看板が出ていた。

 白いふわふわした椅子に腰かけたパクスロと、母子がカメラマンに笑顔を向けていた。

 パクスロなどは、口角を無理やり広げて目をまん丸にして輝かせ、すっかり板についたものだった。

 つられて子どもも大口を開け、目を皿のようにして顔を|瀞《とろ》かせた。

 幸せいっぱいなムードが、エルマのサンタクロースとしてのプロ意識に火をつけた。

「ゆうちゃん、サンタはね、人を幸せにするためにいるのよ。

 サンタに会ったら、子どもは幸せになるの」

「うん」

 予約客の合間に、パクスロとエルマは祐樹を間に座らせて、陽気にポーズを取った。

 はにかみながらも、2人の勢いに乗せられたようだった。

 それから、ホームでの暮らしや学校出の話などが、口を突いて次々に出たのだった。

「僕、将来サンタクロースになれるかな」

 頬骨の辺りをポリポリと掻いたパクスロは、床に目を落とした。

「きっとなれるよ。

 サンタ村にもおいでよ」

 小さなプレゼントを手渡すと、白い歯をこぼして手を振りながら走って行った。

「ありがとう、エルマお姉ちゃん、パクスロさん」

 祐樹の姿がエレベーターホールへ消えると、

「ねえ、何を考えたの」

 エルマは少し暗い顔を見せた。

「サンタの世界も、厳しいものだからさ」

「まあね。

 テロの現場を押さえたり、強盗を捕まえることもあったね」

「それもあるけど、冬の夜空を飛ぶだけでも本当は命がけだ。

 笑って自分を殺せる奴だけが、本物になれるんだ」

「真面目に考えすぎじゃないかしら」

 耳に「Silent night」の静かな|調《しらべ》が響いた。

「ゆうちゃんだって、ギリギリの人生を生きているはずだ。

 決して軽はずみに夢を語ったりしていない。

 親なしで、あんなに明るく振舞う強さがあれば、きっと良いサンタになる」

「だったらそう言えばいいのに」

 パクスロは黙っていた。

 華やかな赤と白のサンタスーツと、緑のツリー。

 底抜けに明るいだけに、影も濃い。

 世の中は、決して光だけで成り立っているわけではないのだ。

 児童養護施設で暮らす子どもが、何も知らないはずはなかった。

 

 夕食を済ませると、祐樹はシャワーを済ませた。。

 4つあるシャワー室を順番に使い、終わったら次の人へ連絡する。

 同部屋の身体が大きいかんちゃんは、些細な音にもびっくりしてしまう繊細な心の持ち主である。

 小さな|箪笥《たんす》から着替えを取り出して、ゆっくりとたたみ直す。

 4隅をきっちりと合わせないと気が済まない様子で、折り紙のように正確に折り目をつけていた。

 奥にある柱にもたれて足を投げ出した祐樹は、スマホを取り出してゲームを始めた。

 9時までの自由時間を、大抵床に座って遊んでいる。

 布団は寝るとき以外に出してはいけないことになっているので、硬い床でお尻が痛くなってくる。

 でも束の間の自由時間を一秒でも無駄にしたくなかった。

 しばらくゲームに没頭していると、青い顔をしたかんちゃんが戻ってきた。

「どうかしたの」

 声をかけるが俯いたまま反応がない。

 ときどき気分が下がってくると塞ぎ込むので、今日もそれだと思った。

「僕、死にたい」

 顔を上げると、机の引き出しを探っていた。

 刃物を取り上げられているので、すぐに危険があるわけではないが祐樹

は飛び起きるようにして部屋を出た。

 リビングで職員のおばさんが片付けものをしていた。

「あの、かんちゃんが」

 ぼそぼそと声を絞りながら、手首を切る動作をして見せた。

「死にたいって」

 おばさんは部屋に駆け込んで、かんちゃんを引っ張ってきた。

 ネガティブな感情が祐樹の心にも流れ込み、いくらか|憂鬱《ゆううつ》になった。

 深刻な顔を向けていた祐樹に、おばさんが笑顔を作って見せる。

「おやまあ、ゆうちゃんも悲しくなっちゃったかな。

 かんちゃんのことは任せておいて。

 さあ、部屋に戻っておいで」

 やさしく背中を押され、部屋のドアをパタンと閉めた。

 一つ大きなため息をついて、かんちゃんの机の引き出しを閉めるとまたスマホを手に取った。

 今夜は月が明るく照らしている。

 窓の外に、茂みがぼんやりと浮かび上がっていた。

 

 たくさん仕入れたプレゼントを橇に乗せ、エルマはトナカイに言った。

「さあ、トナカイさんたち。

 サンタ村に帰るよ」

 つぶらな目を向けていたトナカイが、寒風を切り裂き上空へと舞う。

 |麓《ふもと》のコンビニに預けていた荷物は、山盛りになっていた。

 白い袋に詰められ、鈴の音を響かせて空を横切るシルエットが山を目指して進んで行く。

 そして|綺羅星《きらぼし》の一つになったかのように、小さくなっていった。

「夢を持つのは、子どもの特権だよね。

 うふふ、トナカイさんもそう思うでしょ」

 脳裏に日本で出会った悲しい子どもの姿が浮かんだ。

 フィンランドよりずっと温和な日本でも、恵まれない子どもたちはいる。

 そんな子どもたちにこそ、サンタクロースの夢を見せてあげたい。

 このプレゼントは、児童養護施設のようなところで配られるべきだ。

 心が、どうしようもなく苦しくなって身もだえし始めた。

 すると、トナカイの内の一頭が振り返り、エルマの手を|舐《な》めた。

 頬を涙が伝い、視界が霞んでいく。

 サラサラの雪が身体にも、橇にも積もり、寒さに心が震えた。

「日本へ、行ってもいいかな ───」

 突然、視界が真っ白な光に包まれた。

 着いた先は、古いアパートだった。

 外階段の脇に「アニティホーム」という白い看板が出ている。

 看板だけ妙に|綺麗《きれい》な白地に黒で書いてあるので、遠くからでもはっきり見えた。

 木造の2階建ての建物は、ところどころ塗装が|剥《は》げて、腐食した木材や|錆《さ》びた鉄が露出している。

 幸いにも、通りに人影はなかった。

 プレゼントの袋を一つ|掴《つか》み、地面に降りたエルマは玄関のインターホンを押した。

「あの、私はサンタガールです。

 そちらの祐樹くんや、他の子どもたちにプレゼントを届けに来ました」

 インターホン越しに告げると、相手は沈黙していた。

 しばらくして返って来たのは、

「すみませんが、お引き取りください」

 という素っ気ない言葉だった。

 インターホンのスイッチか切られ、静寂が戻ってきた。

 チラチラと、|牡丹雪《ぼたゆき》がトナカイの頭と背中にくっついて、湿らせていった。

 大きな白い牡丹が舞う空は、どこまでも高く、虚しく抜けていく。

 アパーtの屋根には、うっすらと白い|塊《かたまり》がまだらに積もり始めた。

 

 一面銀世界のサンタ村では、エルマを心配して空を見上げるパクスロの姿があった。

 そろそろ着く頃だが、細かいチリのような粉雪が夜空に舞うばかりである。

「大丈夫かな」

 ボソリとつぶやくと、大きな|髭《ひげ》を|蓄《たくわ》えた大先輩のサンタが肩を叩いた。

「おまえさん、トナカイは賢い動物じゃ。

 きっと任務を|全《まっと》うして帰ってくるから、心配いらんぞ」

 空に目をやったままのパクスロの心は晴れなかった。

 その時、はるか上空に一等星のように光る物体を認めた。

 外へ飛び出すと、橇のシルエットがしだいに大きくなり、吹雪を物ともせずに近づいてきた。

 納屋に付けた橇に駆け寄り、

「ご苦労さんだったね。

 何か ───」

 言いかけてトナカイの眼を見た。

 パクスロと目を合わせようとしない。

 吹雪が激しさを増し、顔の半分に雪が貼り付いた。

「グズグズしていると危険だ。

 早くやることをやろう」

 エルマの眼は潤み、赤いようだった。

 プレゼントを倉庫へしまうと、数を確認した。

 だが、パクスロは何も言わなかった。

「ほら、スープを飲んで」

 エルマの分と、自分のスープをオウシュウアカマツ製のテーブルに乗せた。

 木目が真っ直ぐに走っているのが特徴である。

 整った縞模様の上にスープのベージュが鮮やかにひき立ち、モクモクと湯気を立てる。

 硬い表情をいくぶん和らげて、スプーンを取ったエルマはスープを口に運んだ。

「どうだい、腹に染み渡るだろう。

 働いた後のスープは格別だな」

 目を細めて笑いかけたパクスロの顔をジッと見て、手を止めた。

「私 ───」

 泣き出しそうなエルマを制して、

「いいんだ。

 プレゼントを落っことしただけだ。

 また注文しておくよ」

 何かを言おうとしたが、目を伏せてスープをまた口に運んだ。

 嬉しいこと、楽しいことを運ぶはずのサンタは、たくさんの犠牲を払っているのだと思い知った。

 決して香ることがない雪を身体に受けて飛び、子どもたちの笑顔だけを目指して突き進むのだ。

 パルムを使えない半人前に、まともな仕事ができるはずもなかった。

 打ちひしがれた表情のエルマを、パクスロは笑顔で許したのだった。

 

 拾得物として交番に届けたプレゼントが戻ってきた。

 すっかりクリスマスを過ぎてしまったが、子どもたちは大はしゃぎである。

 新しいゲーム機をテレビに|繋《つな》いで、ゲームを始める子、お喋りをする人形に話しかけて笑う子。

 ホームが一変して賑わいに包まれた。

「ねえ、僕にもやらせて」

 かんちゃんが目を輝かせてコントローラーを手に取った。

「インターホンで、若い女の人の声がして祐樹くんの名前を言っていたのだけど ───」

 おばさんが祐樹の前にしゃがみ、優しく肩を|掴《つか》んた。

「もしかしたら、エルマお姉ちゃんかも知れない」

 祐樹は爪を|噛《か》んだ。

「サンタガールですって言ってたんだよね」

「間違いないよ」

 ポンと頭に軽く手を置いて、おばさんが言った。

「そうかい。

 知ってる人だったんだね」

 ゲーム機を持った祐樹は、夢中になって遊び始めた。

 窓が少ないこの建物には、影が多い。

 だが、サンタがプレゼントしてくれたお陰で、出不精な子どもたちの目に光が灯り、輝きを放つ。

「僕ね、大きくなったらサンタクロースになりたいな」

 祐樹の|双眸《そうぼう》ははるか遠くを見ていた。

「そうかい。

 じゃあ、ホームに来る子どもたちが喜ぶだろうねえ」

 キッチンで昼食を用意し始めたおばさんが、今日は特別に自由時間を増やしてくれた。

 いつも青白い顔をしていたかんちゃんも、顔に血の気が差して希望に輝く眼を取り戻していた。

「じゃあ、ぼくもサンタクロースになろうかな」

「僕も」

「私も」

 そんな声が笑顔とともに巻き起こったのだった。

 

「エルマ宛ての手紙がきてたぞ」

 パンパンに膨らんだクラフト封筒には、日本の住所が書かれていた。

 差出人は、|折島 祐樹《おりしま ゆうき》とあった。

 木製のペーパーナイフで、丁寧に封を切ると手紙を読み始める。

「エルマお姉ちゃんへ

 プレゼントをありがとう。

 ホームのみんなと一緒に、楽しく遊んでいます。

 すぐに死にたくなるかんちゃんも、テレビゲームに夢中です。

 隣りの部屋の泣き虫な、まゆちゃんは猫のロボットに笑いながらいつも話しかけています。

 よっちゃんは、ブロックで不思議な家をたくさん作りました。

 みんな、サンタガールのエルマお姉ちゃんに感謝しています。

 そして、みんなでサンタクロースになりたいねって話しました。

 ありがとう。

 また会えるよね。

                 おりしま ゆうきより」

 大人に手伝ってもらったのだろう。

 それにしてもしっかりとした字で感謝の気持ちを|綴《つづ》っていた。

 ホームで生活する、他の子どもたちからの手紙もたくさん添えられ、折り紙で雪の結晶を作って貼り付けてあった。

 エルマは、たまらなく胸を熱くして、手紙をぎゅっと抱きしめた。

「気持ちは、届いていたね」

 パクスロが手紙を覗き込んだ。

 そしてまた、顔をくしゃくしゃにして笑うのだった。

 

 20年後 ───

 日本中から寄せられる、サンタ宛ての手紙を一枚一枚ペーパーナイフで開き、返事を書く団体があった。

 社長の祐樹は、児童養護施設を回りプレゼントを配ったり、一緒に遊んだりして元気づける活動を続けている。

 幼い頃から同じ夢を描いた社員のほとんどが、アニティホーム出身だった。

 かんちゃんは、持ち前の体力で、精力的に全国を飛び回り、子どもたちと一緒に楽器を演奏したり歌ったりしていた。

 まゆちゃんはクリスマスリースの講座を開いて、子どもたちと一緒にキラキラしたリースを飾る。

 よっちゃんは、子どもたちにプレゼントを配る活動を続けていた。

 アニティホームのチャイムが鳴る。

 返事をしたおばさんがインターホン越しに、

「サンタクロースです。

 プレゼントを届けに来ました」

 という声を聴いた。

 迷わずドアを開けると、祐樹が白い大きな袋を抱えて玄関に入る。

「わあっ」

 と子どもたちが顔いっぱいに喜びを浮かべて走り寄る。

 顔をくしゃくしゃにして笑った祐樹は、

「メリー・クリスマス」

 と言って子どもたちに分け与えるのだった。

 外は、牡丹雪が積もり始めていた。

 雪がホームの暖かい光に照らされて、まるで花のように舞う夜のことであった。

 

 

この物語はフィクションです