魔法のクリエイターと言われる理由、お教えします

人は知る。人は感じる。創作で。

2023-05-07から1日間の記事一覧

【小説】結氷と虚無Ⅱ

予備校へ 予備校の体験入学を申し込んだ2人は、相変わらず美術室でデッサンを描いている。 等々力西高等学校は美術に力を入れていると聞いたことはないが、美術室は充実していた。 ハッキリ決めたわけではないにしても、|航《わたる》と浩太は本格的に絵の…

【小説】結氷と虚無 ── 世界が変わった 考え続けたら ──

静けさの中で 「静けさ」とは何だろうか。 宇宙の真空だろうか。 月には有名な「静かの海」がある。 模様を餅つきをするうさぎに見立てると、顔の部分らしい。 月を見て、静けさを感じるのはなぜだろう。 メモ帳に、満月を描いてみた。 月見にしようかと、酒…

【小説】孤狼の鉄甲

戦士の国 「待ってください! この子はきっと強くなります。 どうか見逃してください」 女は幼子を抱き上げると体を丸めて座り込んだ。 「奴隷にするか、谷から投げ捨てるか選べ」 兵士は冷たい眼で子どもを|睨《にら》んだ。 岩山の中腹には、谷が口を開け…

【小説】深紅の時空間旅行Ⅲ

忘れもの 8月27日(土)の夜、時空間旅行への招待状が届いた。 1889年パリ万博へ行った父は、何を思って旅行先を選んだのだろうか。 父はバイオリンの弓を残していった。 タイムマシンで過去に|遡《さかのぼ》る者は、一つだけ持ち帰ることを許される。 そ…

【小説】深紅の時空間旅行Ⅱ

水先案内人 みなさん、お久しぶりです。 この作品から読み始めた方は、はじめまして。 こうしてお会いできたのも、|時空《とき》の巡り合わせに違いありません。 |私《わたくし》は「ルージュ」と申します。 トレードマークは赤いネクタイです。 時空間旅…

【小説】ミラクル ホワイト カレー

奇妙な出逢い 駅から10分ほど歩く。 路地を入ったところに、あまりはやっていなそうなカフェが一件。 木目調の看板に「SELA」と書かれている。 古びた木のドアは、白い塗装がところどころくすんでいる。 窓は大きく開放的で、決して雰囲気は悪くないが、大通…

【小説】夜陰の灯

倦んだ夏 埼玉県は、関東平野の中央に位置する。 東京をはじめとした都市部の、エアコン、アスファルトの熱で海風が暖められる、ヒートアイランド現象を、もろに受けて、暑い大気がやってくる。 だから、気温が40度に達するほど、暑くなるのである。 ここ熊…

【小説】世界を一変する、この世で最も黒いもの

本を読む少年 |幹夫《みきお》は、紺色の大きな本を開いている。 表紙には、ワイヤーフレームで描かれたロボットの絵が、輝くネオンサインのように煌めいていた。 「アスケー出版だって。 幹夫くん。 何を読んでるんだい」 病室の陽射しは、強烈である。 本…

【小説】猫とほへ顔

婚活女子 カタカタ…… 薄暗い和室に、響くワープロ。 インターネットでチャットをして、気の合うパートナーを探す「シャ・トロワ」に入会したばかりの|花ヶ前 真由美《はながさき まゆみ》は、年頃の男子と話すことに熱中していた。 35歳になるまで、男性と…

【小説】ジャンク・ジャーナル

ジャンク・ジャーナル解禁 秋の冷たい風が吹く。 河原の草は枯れ始め、遠くに赤く色づいた木が鮮やかに心を捉えた。 「やっぱり、小さなことでクヨクヨしてちゃ、いかんよねえ」 新卒6年目。 28歳になった|山川 一郎《やまかわ いちろう》は、仕事の人間関…

【小説】弩級鉄筋乙女エクレア

世界を終わらせる兵器 ついに、世界を終わらせるといわれる、プロジェクトが始まる。 目的も知らされず、ロボット研究者が3人集められた。 防衛省管轄の地下施設で、極秘裏に研究が進められる。 そして、兵器が完成してしまう。 その名は 「|永久恋愛《エ…

【小説】神の国から風吹いて

新緑の禅雲村 あざやかな木々の緑。 新緑の季節。 4月を迎え、都市部では、桜の花見が宴たけなわ。 だが、ここ禅雲村には、ほとんど人の気配がない。 畑のあぜ道にで、のんびり井戸端会議をする3人の村人がいる他は。 「こんにちは。 今日は、いい陽気だね…

【小説】俺、前世は商人だったんだ。踊り子、吟遊詩人、召喚士と旅してます

勇者エルマン やあ。 みんな。 俺は、ラルフ・エルマン。 よろしくなっ。 モンスターの脅威から、セーデルバウムを救うためにやってきた。 剣と魔法は何でもできる、万能の冒険者だ。 戦いを始める前に、仲間を集め、国王様に、あいさつしないとな。 セーデ…

【小説】戦国のジクウⅣ

朱い天空 朱い空の下に、天を突く大きな山がそびえていた。 魔界には、名のない山、川、平原が広がっている。 一説には、現世よりも広いと言われ、時空を超えて出入りする者もいるという。 謎に包まれた世界は、数人の支配者によってある程度の秩序を保って…

【小説】戦国のジクウⅢ

奈落の底で 時は戦国。 戦乱の爪跡は大地を血に染め、無数の|屍《しかばね》で埋め尽くした。 男たちは戦場に駆り出され、残された者は敵方に|蹂躙《じゅうりん》され家々には火が放たれた。 自らを第六天魔王と称した織田信長の出現により異形の妖魔たち…

【小説】戦国のジクウⅡ

2つの影 ポツリ、ポツリ。 闇の中、|雫《しずく》の音が間断なく響く。 洞穴の冷気が奥から|微《かす》かに首元をなでる。 「──よ…… ニッコウよ…… 」 奥から絞り出すような声が低くこだました。 「はっ。こちらに── 」 「例の者たちは、徐々に力を増して…