魔法のクリエイターと言われる理由、お教えします

人は知る。人は感じる。創作で。

【小説】ガラクⅡ 砂の激戦  ─── 優しい死神たち ───

運命を変える

 

 運命の日から1か月が経った。

 灼熱の太陽が|燦燦《さんさん》と降り注ぎ、コンクリートの地面を焦がす。

 長い道の先には輝く砂が幾重もの丘を作り、地平線へ消えていった。

「渇くな ───」

 ラルフは天を仰ぎ、スパナを持った手で額を拭った。

 近くをジョギングする一団が近づいてくる。

 元気に掛け声をかけて走る集団の中には、アメリカ人、アジア人などもいた。

「ラルフ、機体の調子はどうだい」

「ハーティじいさん。

 上々だよ。

 |外見《そとみ》はアイアンイーグルだが、中身はごちゃまぜなんだな」

「そうさ。

 だから、特別価格でご提供ってわけさ。

 なあに、お前さんの腕ならすぐに新しい機体が買えるさ」

 死の商人である小柄な老人は、やせ細っているが白髪頭を振り乱して駆け回っていた。

 左手には伝票の束、右手は拳を握ってズンズンと基地を歩く。

 入れ替わりにスラリと背の高い男が入ってきた。

「ナセル指令!」

 向かい側にいた男が跳ね起きて敬礼した。

 ラルフはそれに倣って右手の指を揃え、額の前にかざして立った。

「ああ、楽にしてくれ。

 新入りだね。

 ラルフ・ノエル・オリベール少尉 ───」

 書類に目を落としてなにやら唸っている。

「シルディーン・ナセル総司令!

 本日着任したラルフです。

 ご足労恐れ入ります」

 右拳を顎に当てたまま唸っていた。

 目尻に鋭い光を放つ。

 さすがに軍事基地の総司令官ともなれば、常に殺気を纏っている。

「アルバラ共和国、アル・サドン空軍基地へよく来てくれた。

 我が国のためにご助力願いたい。

 ただし、戦況は大変厳しい。

 明日には葬式が出るかも知れん。

 せいぜい稼いで行け」

「この戦闘機を見れば、厳しさがわかります。

 しかし、いきなり少尉とは驚きました」

「君は、アメリカ海軍に所属していたそうだな。

 元カール・ビンソンの艦載機乗り。

 そして、CIA捜査官。

 いくつか作戦をこなして生き残ったら小隊を任せることになるだろう。

 トムキャットかホーネットが欲しいところだが、なにぶん予算が底をつきかけている」

「エトランゼ(外人部隊)はどこもこんなもんでしょう。

 自分もゼツも、身寄りはありません。

 死んだら母国に座標を知らせてもらえるだけで充分です」

「ここに来る者は皆訳アリだ。

 地獄の方がまだマシだろうさ」

 サングラスを取ったナセルの顔には、いくつか傷が残っていた。

 何かを確認するように格納庫を見渡すと、|踵《きびす》を返して出て行った。

本当の自分

 

 ガラクは花の都パリにいた。

 故郷を捨てた日に辿った道を、TGVで遡り安宿に落ち着いていた。

 レックスも、両親も凄まじい過去を持つ。

 ガラクは皆に守られて生きてきた。

 だが20歳になり、今度は自分が守る番である。

 レックスは惜しみなく戦士としての技術と心をガラクに託した。

 老い先短いから帰ってくるなと念を押していたが、両親の消息がつかめたら戻るつもりだった。

 部屋は細長い木製ベッドがあるだけだった。

 シャワーとトイレは部屋についている。

 安宿にはどんな人間がいるかわからないし、極力外に出ないようにしていた。

 殺し屋という十字架を背負った母親。

 負の遺産がこれからの生活にのしかかってくる。

 もう堅気の生活など望めないだろう。

 幸いにも、自分には親譲りの戦闘の才能がある。

 それを頼りに生きていくしかなさそうだった。

「はあ ───」

 大きなため息とともに、薄っぺらなベッドに転がった。

 横にはホルスターに収まった「ベレッタPX4 ストーム サブコンパクト」が静かに眠っている。

 一度だけこいつをぶっ放して、暴漢の頭を吹っ飛ばした。

 死の恐怖と怒りが入り交じった静寂の中、身体が勝手に反応したのだった。

 人殺しなど好む性格ではないはずだったが、いざとなれば|躊躇《ためら》いがなかった。

 両手を頭の後ろで組み、ゴロリと壁に向かって転がる。

 眼には涙が伝っていた。

「君には天性の才能がある。

 ゼツが見たら驚くだろうな」

 笑顔でレックスが言うのだった。

 人殺しの才能 ───

 必死に運命を手繰り寄せ、見失わないように銃口を正確に向けた。

 エアーガンの引き金を引くと、すべての物が跳ね上がり意のままに操ることができた。

 とっさに床を這い、転がり、充分な態勢がとれなくても撃った弾は吸い込まれるように的を鳴らした。

「自分の身体に、悪魔が棲んでいた ───」

 戦いのサラブレッド。

 そして常軌を逸した精神力。

 自分はいつも冷めているのだと思っていた。

 心にいつも余裕があって、穏やかなのだと思っていた。

 眼に映ったものは必ず捉え、脳から指先へ瞬時に引き金を引く指令が下る。

 並の人間ではない。

 生まれたときから、魂に刻み込まれていたのである。

 今はこの強さが重荷に感じた。

「できることなら、平和な暮らしを取り戻したい ───」

 近頃は寝床で毎晩|呟《つぶや》くのだった。

大地の戦士

 

 「隔離街ファリーゼ」は、殺し屋が身を潜めるには打ってつけの貧民街である。

 石造りやレンガ造りの古い壁が路地を作り、崩れかけた小さな家の中に淀んな眼の人々が巣食う。

 死体が転がっていることなど珍しくなく、銃撃戦が起これば身を隠して出てこない。

 自分自身が生きていくだけで精一杯だし、毎日を全力で生きているとも言えた。

 レックスはこんな街が好きだった。

 バルセロナやパリには人がいない。

 命を賭けて戦うことだけが、人間らしい営みである。

 銃に人生を捧げ、生きる糧も信頼できる仲間もすべて戦闘の先に見いだした。

 実のところ、レックスは銃の才能に恵まれなかった。

 寝る間も惜しんで血の出るような努力の末に「伝説の殺し屋」と呼ばれるようになったのだ。

 生きる術を知らず、盗みを繰り返し警察に捕まってまた盗む。

 そんな暮らしから死に物狂いで抜け出した。

 人の命を奪って。

「ガラクは無事だろうか ───」

 夜空の星は、今日もきれいに|瞬《またた》いている。

 才能に恵まれなかった分、確かな技術を身につけることができた。

 ネガティブな状況をひっくり返す判断力は誰にも負けない。

 誰よりも死線をくぐり、銃で未来を切り拓いてきた。

「星空は人間をセンチメンタルにするな ───」

 ため息をつき、夕食を済ませた頃だった。

「こちらに、レックスという人はいるかい」

 戸口にやってきた老人がこちらを見ていた。

 構えていた銃を下ろすと、招き入れた。

「私がレックスだが」

「ゼツとラルフを知っているかね ───」

 リビングに|設《しつら》えた小さなテーブルに、ワイングラスを2つ置いた。

「『大地の戦士』アジェンダ・アグラリア・グエリエリ ───」

 静かにワインを注いで、老人に勧めた。

 死の匂いを漂わせる人間は、直観的に理解できる。

 長年命のやり取りをしてきたレックスには、地獄の使者を迎え入れる準備ができていた。

「おお、ワインかい。

 これでもワシは、仕事中でね」

 両手を横に組んで、舌なめずりをしながら言う。

「そんな顔してないでしょう。

 どうぞ、遠慮はいりませんよ」

 レックスはグイと口を濡らした。

「そうだね。

 舌の滑りを良くしないとだな」

 老人は背が小さくて、髪は真っ白。

 黒スラックスに白シャツ、黒ベストで、ちょっぴり気取っているように見えた。

 だが眼だけはやたらと奥光りしている。

砂の地獄

 

「それで ───」

 一口含んで転がし、ゴクリと音を立てて飲むと柏手を打った。

「うん。

 そうだった。

 うまいワインを飲んで思い出したぞ」

 席を立つと窓から星空を眺めた。

 月明りに怪しく立ち姿が映え、顔が青白く光る。

 月を背に振り返りざまに切り出した。

「ワシの名はハーティ・ホイルだ。

 ゼツとラルフからメッセージを預かっている」

 ポーチから封筒を取りだした。

 レックスへ宛てられた封筒は分厚かった。

「アルバラ共和国空軍基地アル・サドンで2人に会って、こいつを託されたという訳さ。

 エトランゼに入った以上、逃亡は銃殺だ。

 1年間生きていればシャバに戻って来れるがね。

 契約書に大まかな住所が書かれていた。

 探すの、大変だったんだぞ ────」

 横を向いて人差し指を合わせ、すこしもじもじとする。

 レックスは、手持ちの金をそっと手渡した。

「いやあ、恩に着ます。

 息子と娘のようなものですから。

 そうですか。

 軍隊に入ったのか。

 それなら足がつかない。

 スパイも顔負けの姿くらましだ」

 酒も回り、珍しくほころんだ笑顔を見せた。

「元気にしとるぞ。

 ワシは、たくさんの訳アリ人間を見てきたからわかる。

 どちらも人殺しが好きな人間ではないな ───」

 世界を渡り歩く武器商人は、つい社会情勢の話などを長々とした。

「産婆と、葬儀屋と、兵隊に失業の心配はいらん。

 世界のどこかで必ず悪だくみする者がいる ───」

 ワイングラスを片手に窓辺に手を突き、もう一度月を見上げた。

「月が赤いですね」

「悪だくみが本格的になる前触れだ。

 アルバラの戦争は大きくなりそうだ」

 ハーティの顔に陰りがよぎった。

「私は、命のやり取りをしてきましたが、戦場には疎いし世界のことなど考えてきませんでした」

 月を見上げたまま、グイとワインを喉に流し込むと一息ついた。

「そんなことはあるまい。

 一握りの真実の中に、宇宙があるのだぞい。

 人の命と向き合うものは、この世の真理に通ずるものだ」

 空のワイングラスがコトリと音を立てた。

「四六時中神経を張りつめさせて70年も生きてきました。

 そんな自分が敗北感を持ちます」

「ほう。

 才能を見いだしたかい」

「ガラクと言う娘が、あらゆる しがらみを断ち切ってくれることでしょう」

 2人は目を閉じ、床に伸びる月明りに目をやった。

「優しい死神は、世界を救う ───。

 武器を売る相手が、そんな人間なら良いがな」

 ふっと自嘲気味に笑った。

戦士たちのレクイエム

 

 夜中1時。

 静まり返った基地に警報が鳴り響く。

 続いてサイレンがけたたましく鳴り、サーチライトが四方を照らしだした。

 跳ね起きたラルフは戦闘服を3秒で身につけ、荒々しくヘルメットを壁からひったくる。

 ドアを付き飛ばし、走りながらファスナーを閉じ格納庫へ滑り込んだ。

「回せ!!!」

 砂漠の夜は冷え込む。

 ジェットエンジンを瞬時に目覚めさせるため、ケロシン(灯油)を流し込みタービンが火を噴く。

 エンジンの寿命が縮むが命には代えられない。

「オーバーホール(分解整備)したばかりの機体だ!

 俺が先に出る!」

 ラルフはコックピットに飛び乗ると、後ろに気配を感じた。

「はあい。

 夫婦一緒に地獄散歩と行こうじゃないか」

 ゼツが手を振っていた。

「ふざけてる場合じゃない!

 エマージェンシーだ」

「離陸で死にゃあしないだろう。

 思い切りやって」

「ゲロ吐くなよ!」

 操縦桿を握ったラルフは、一瞬心躍った。

 戦士の魂は燃え|滾《たぎ》っていた。

「コントロール

 発進準備はできている。

 周りの連中がモタモタしているんなら出る!!!」

 ラルフは一度火がつくと止まらない|質《たち》だった。

 どんな環境にも瞬時に適応し、最適な行動を取れる。

 戦場では生死にかかわる資質である。

「おい!

 今、キラッて光ったぞ!

 10時の方向」

 ゼツの一言で脳の安全装置が吹っ飛んだ。

 ジェットエンジンにフルスロットルをかける。

 信じられないGがかかり、顔が歪むほどだった。

「オラオラ!!!

 どかねえと踏みつぶすぞ!」

 蛇行しながら滑走路の障害物を|躱《かわ》し離陸していった ───

「ひええ……

 飛んでったよ……」

 管制室にため息が起こった。

 離陸速度は時速500キロメートルである。

 すぐさま加速して時速1000キロの音速飛行に移らなくてはドッグファイトできない。

 戦闘中に失速したら七面鳥撃ちになるからである。

 一瞬の|躊躇《ためら》いが死につながる。

 Gにビビったら死ぬ。

 目前の敵の攻撃に当たればもちろん死ぬ。

 そして逃げれば銃殺である。

「うおおおお!

 勝つか死ぬか!

 お前らも選べ」

 カッと両眼を見開き、機影を捉えた。

「うひょお!

 ノッテきたねえ。

 大好きだぜ」

「スパローをぶっ放せ!」

「オーライ!」

 ゼツが発射ボタンを続けざまに押した。

 照準の中心に機影を捉えている。

 すれ違いざまに4機が弾け飛んだ。

 旋回し態勢を整える。

 速度をまったく落とさないから、凄まじい横Gが顔を引き剥がす。

「後は機銃でやる!

 すれ違いざまはド迫力だぜ!

 チビるなよ」

 時速1000キロがすれ違うのだから、肉眼では追えない速度に達する。

 ゼツは初めてコックピットから見る戦闘に興奮していた。

 脳から出たアドレナリンが、周囲をスローモーションに変えていた。

 ギリギリの射程距離を見切っているラルフは、100分の1秒の精度で敵を打ち抜いた。

「おお!

 すげえ!

 銃撃戦よりシビレるじゃないか」

 計6機を離陸と同時に撃ち落とし、残り4機は敗走した。

 敵機が消えると、空に静寂が戻った。

 バーナー炎が尾を引き、轟音を響かせるばかりである。

 砂漠が銀の|絨毯《じゅうたん》のように煌めいていた。

 ゼツの操縦に切り替え、シートにもたれた。

「コントロール

 こちらゼツ。

 帰投する。

 グライドパスに誘導してくれ ───」

 逃げ帰ったパイロットは口々に言った ───

「悪魔だ ───

 一瞬で6機飲み込む悪魔が棲んでいる」

 初めての交戦で、アイアンイーグルの伝説をアル・サドン基地に打ち立てたのだった。

戦士の魂

 

 計器類を睨みつけ、操縦桿をほんの少し動かしながら冷汗をかく。

「高度を少しずつ落としながら速度を落とす。

 滑走路を正面に捉えたら角度をチェックして ───」

 機体のバランスが固定され、基地を視界の中心に捉えた。

「よし。

 グライドパスに乗せたな。

 これならすぐに実戦投入できるぞ」

 タッチダウンするとエアブレーキを立てる。

 一連の動作を調和させる技術が必要になる。

 戦闘機などほとんど乗ったことがないゼツだったが、すぐに適応するところは|流石《さすが》だった。

「ふう、寿命が縮むぜ」

 ヘルメットを取ると、仲間たちが拍手で迎えた。

「よお、撃墜王

 今夜のエースはルーキーかよ」

「てか、1機で10機蹴散らすか、普通」

 パイロットスーツ姿で群がる中から、進み出た者がいた。

「少尉殿。

 華々しいデビューですな」

 斜めに構えてから、ラルフを見上げるようにした。

 握手を求められて掴んだ右手は興奮で震えたままである。

ファイズ・ハーン・アリ―大尉だ。

 ラルフ・ノエル・オリベール、そしてゼツ。

 地獄の激戦区へようこそ。

 ナセル指令がお呼びだ。

 一緒に行こう」

 3人は群衆をかき分けて管制塔へと向かった。

「あの、勝手に出撃して、何かお|咎《とが》めがあるのかな」

 落ち着きを取り戻したラルフの顔に、不安の色が浮かんだ。

 外は砂まみれのコンクリート造りである。

 基地の入り口には2重のドアがあって、砂を防いでいる。

 入れば窓が少なくて、昼間でも電灯が点いている。

 長い廊下がぐるりと取り囲み、兵士たちの小部屋が区切られている。

 鉄板を仕込んだ壁は、殺風景だった。

 砂嵐が起こると、外の滑走路が埋もれるほどになる。

 だから、兵隊たちも砂下ろしに駆り出されることもあるのだ。

 出撃の合間にさまざまな仕事が待っているようだった。

「ふふふ。

 俺が決めることじゃないが、ナセルという男はただの軍人ではない。

 規律を乱したわけではあるまい。

 心配するな」

 管制室に入ると、ナセル指令が管制官に指示を出していた。

「ああ、ラルフとゼツだったな。

 忘れられない名になりそうだ。

 こちらのアリ―は、うちのエースだが過去の話になってしまったな。

 明日は私も出る。

 お手並みを是非見せてくれ」

 

砂漠の狼

 

 アル・サドンでは部隊長を中心にした編隊を組んでミッションを行う。

 作戦によっては3分の1が帰らないこともある。

 だからメンバーは常に入れ替わるのだ。

 アリーは地獄の激戦区を勝ち抜いてきたエースパイロットとして、尊敬と畏怖を集めている。

 アイアンイーグルに乗り込んだラルフとゼツは、ナセルを隊長としてダイヤモンド編隊を組んだ。

「ナセルのバーナー炎で前が見えないな。

 命預けますってとこか ───」

「この空域でダイヤモンド編隊を組めるのは、精鋭部隊ならではだぞ。

 昨日のアリ―がナンバー1、左のケイ・ホワイト大尉がナンバー2だそうだ」

 夜急襲してきた敵の本拠地を突き止め、追撃する作戦が展開される。

「ナセル指令、自分たちはまだ日が浅いです。

 なぜこの作戦に ───」

 そして先頭をきって司令官が上がってはリスクが大きすぎる。

「理由は昨日言った通りだ。

 私は自分の眼で確かめる主義でな。

 君たちを一騎当千の強者と見て作戦に加えたのだ」

「恐れ入ります」

「10時の方向、お客さんですぜ」

 ホワイトの甲高い声が響く。

「各自奮闘せよ。

 ブレイク!」

 4方へ分かれていく。

 操縦桿を手前に引き、垂直に近い姿勢を取る。

「なぜ上にあがるんだ」

 同時に加速Gが身体をシートに押し付ける。

「敵は20機ほどいる。

 乱戦になれば有利な態勢を取れるかわからないだろう。

 だからあらかじめ有利な上から被せるのさ。

 昨日の要領でミサイルで6機、確実に仕留めてくれ」

 まっすぐに進むナセルが、ドッグファイトに入った。

「|穢《けが》れた血で砂漠を汚すのは不本意なれど ───

 せめてアラーの懐で清めたまえ」

 一瞬失速した機体がひっくり返って戻ってくる。

 そしてバルカン砲が発射された。

 エンジンをブチ抜いた機体が炎に包まれ、煙を吐いて落ちていく。

 反転して下降し始めた機体から、ゼツはしっかりと目に焼き付けた。

「なんだ、今の動きは ───」

「敵さんからすれば、相手が悪かったな。

 指令は怪物だ。

 俺も、見せ場を作るとするか」

 ラルフはバーナーに活を入れた。

 

 機体から降りた5人は、各自の健闘を称えた。

「ラルフ、ポジション取りが流石だったな。

 太陽を背にしたのか」

 ホワイトが肩を叩く。

「うむ。

 全機撃墜 ───

 あとは地上部隊に任せよう」

 ナセルは満足そうに戻って行った。

「なあ、ラルフ。

 ガラクはどうしているだろうな ───」

 ゼツは空を仰いだ。

「浮かない顔だな。

 俺は、心配してない。

 予定は狂ったが、俺たちは死んだも同然に消えたのだからな」

 ゼツは本気で死ぬつもりだった。

 だが、ラルフは殺せなかった。

 生き残ってみると、無性に娘が気にかかった。

「死のうとした人間が、心配するのは変だな ───」

 今日も死線を越えて生き残ってしまった。

「おうい!」

 ハーティ爺さんが伝票を持ってやってきた。

「例の手紙は渡してきたぞ」

 封筒をを手に押し付けると、

「こいつを読んでみな」

 レックスからの返事だった。

 

 

この物語はフィクションです