魔法のクリエイターと言われる理由、お教えします

人は知る。人は感じる。創作で。

【ショート小説】戦国のジクウ(ダイジェストVer.)

死地へ

 

「囲まれた! 」

|飛垣源次《ひがきげんじ》は死を覚悟した。

 動くたびにガチャガチャと黒備えの鎧が鳴り、金具は半分近くが落ちて、だらしなく紐が垂れていた。

 林の中、ずっと走り続けてきたせいで、具足は痛み、髪は乱れ、落ち武者という風体である。「|斯《か》くなる上は。 」

 勇ましく腰の刀に手を掛けたが、脳裏には故郷の風景が浮かんでいた。

 1000石の旗本、池田氏に仕えた源次は、後宿村で生まれ育った。

 幼い頃から畑仕事を良く手伝い、緑の野山を駆け回って遊んだ。 武家に生まれ育った者でも、家は貧しくて百姓と変わらないような暮らしである。

 そんな中でも気品を失わず、少しずつ貯めたお金で武具を揃え、出陣に備えて待った。

 そして野盗狩りに参加した華々しい日に、本陣からはぐれ逃げ延びたという|顛末《てんまつ》である。

 源次は喧嘩の腕っぷしには自信があるのだが、剣術は知らない。

 野良仕事で鍛えた足腰、腕力があっても真剣での斬り合いには別の何かが必要だと、実戦の中で嫌というほど思い知らされた。

「武士とは名ばかり。剣術も出来んとは。 」

 鍬の扱いは長年鍛え抜かれていた。

 同じように剣を振るっても一本調子で、敵を斬ることはできなかった。

「クソッ。今からでも剣術を習いたいものだ。 」

 こうしている間に、前後から足音が近づいて来る。

「こっちだ! いたぞ。 」

 ついに前に2人、後ろに3人。 合計5人の野盗に取り囲まれた。

 彼らは戦場で拾ったと思われる、刃こぼれや染みだらけの剣と具足や胸当て等を身に着け、頭は|蓬髪《ほうはつ》、垢で薄汚れた顔をしている。

 この辺りは|椚《くぬぎ》などが多く、栃の実がパチパチと音を立て、晩秋の落葉に足を取られた。

 源次は死を覚悟した。

「我が名は飛垣源次なり。北条氏の旗本、池田氏の…… 」

 野党の一人が地に唾を吐いた。

「おいっ! そこの馬鹿。うるせぇんだよ。 」

「そうそう。誰もお前の話なんか聞きたくねぇんだよ。 」

「馬鹿め。こいつ刀をクソ握りに持ってやがるぞ。北条氏が聞いて呆れらぁな。 」

「田舎侍め。 」

「ははっ。てめえも田舎者だろうが。 」

「違げぇねぇや。 」

「ひひっ。刀の使い方を教えてやれや。 」

 口々に悪態をつき、辱める始末だった。

「くっ。こいつら話にもならん。こんな奴等に殺されるくらいなら自刃するか! 」

 考えている暇はない。

 源次は鎧の隙間に刀を当てがった。

「無念。|南無阿弥陀仏《なむあみだぶつ》。 」

 ここまで言って、はたと気付いた。

「そうだ。飛垣家に代々伝わる呪文があった! 」

 野党の一人が上段に構えたまま突進して来た。

「何ブツブツ言ってやがる! 寝言は寝てから言えや! 」

 刀を左肩口に斬り下ろして来た!

「オーン ヴァジュラ ダートゥ ヴァーン! オーン ヴァジュラ ダートゥ ヴァーン! オーン ヴァジュラ ダートゥ ヴァーン! オーン ヴァジュラ…… 」

 死の恐怖が呪文を早口に、そして叫びにも似た声で繰り返させた。

「うああぁぁ!! 」

 瞳孔が開き、見開かれた目が辺り一面の光を捉えた!

 常世を垣間見たと思った……

 随分長い時間が流れたように感じる。

「ああ、死んだのか。俺は。 」

 絶叫の後、口は半開きにだらしなく開き、叫びが呻きに変わっていく。

「ううぅ 」

 その時、

「源次…… 身をかがめて前に突き出せ! 」

 半分意識を失っている源次は、操り人形のように倒れ込みながら刀を前に突き出した。

「ぐわっ! 」

 1人が腹を斬られて倒れた。

 命への執着が消え、身体の力が抜けたまま刀を突き出した動きが、神速の剣技を体現させたのだ。

 彼の中にはすでに自我がなく、身体の揺らぎに任せて動いていた。

 自分がすでに現世の者ではなくなったと思い込んでいたのかも知れない。

「うむ。筋が良いぞ。そんな調子だ。次は右下段から斬り上げ、そのまま左の奴の脳天へ斬り下げろ…… 」

 続けざまに二人が血飛沫を上げる。

「ぎゃっ! 」

「ぐっ! 」

 ほとんど刹那の出来事だった。

 何者かが指示をしている。

 その通りに動くしかなかった。

 そして野盗は2人になった。

「ふううぅぅ…… 」

 源次が深く息吹を吐き出す。

 目は爛々と煌めき、刀と甲冑は血で真っ赤に染まり、地獄の鬼が現世に現れた様相だった。

「次は……? 」

 虚ろな目で虚空を見る。

 薄れゆく意識の中で、心に響く声を待った。

「うわああぁぁ! 」

「鬼だ! 鬼神が現れたぁあぁ 」

 あまりの迫力に、残りは這うようにその場から遠ざかって行った。

「はあぁぁぁ…… 」

 肚から力が抜け、崩れ落ちるように落葉の中に眠った。

 

謎の戦士

 

「ううぅ 」

 気が付くと、源次は布団で寝かされていた。

 秋の日差しが畳を照らし、|藺《い》草の香りが心地よく鼻をくすぐる。

「おっ。目を覚ましたな。 」

 起き上がろうとしたが、極度の疲労で身体が言うことを聞かない。

「案ずるな。怪我はない。アシュラ。ニッコウ様に伝えて来てくれ。 」

「飛垣源次。俺はジクウ。よろしくな。詳しくはニッコウ様から説明してもらう。 」

 枕元にいた少年は、口角を開き、眩しい歯を見せて笑った。

「ニッコウ様も来るよ。あら。刀を探しているのかな? 」

 源次は咄嗟に右手を伸ばして畳を触っていた。

 しばらくして、ガチャリと陶器の乾いた音を立てて、お膳を運んで来る者がいた。

「ああ。ニッコウ様がそのようなことを…… 」

 アシュラと呼ばれた少女が慌てて立ち上がり、お膳に手を伸ばす。

「良い。このお客人は、大事なお方だ。お持て成しさせてくれ。 」

 縁側にお膳を置くと、40歳前後と思われる、スラリとした色白の男が入って来た。

「ご無事で何よりでした。今は精を着けることが肝要。さ、お召し上がりください。 」

 お膳を引き寄せ、ニッコウは縁側に出て行った。

 お互い目で合図をして、枕元にいる2人も席を立った。

「しばらく召し上がっていない様子なので、さぞかし空腹でいらっしゃるでしょう。お|櫃《ひつ》をお持ちしましょう。 」

 アシュラがそう言い残し、三つ指を着いて|恭《うやうや》しく礼をした。

 何が起こったのか、頭の中が整理できていないのだが、どうやら身体が動かない原因の半分は空腹のせいだった。

「どちら様か存じ上げませんが、このような親切。かたじけない。 」

 源次はお膳に向って手を合わせ、深々と礼をした。

 そして、|堰《せき》を切ったように食欲が頭を支配した。

 ガツガツと貪るように平らげ、外の風景を眺めていた。

「おかずになるものが見当たらないので、お茶漬けにして参りました。 」

 |丼《どんぶり》一杯の飯に魚肉を振りかけた茶漬けを乗せて、盆が持ち込まれた。

 空になったお膳の物を、手早く取り替える。

 それも源次は平らげ、しばらく恍惚の表情で、また外を見た。

「立派な庭だ。家人の気品を感じさせる。 」

 腹が一杯になって、気分が落ち着くと部屋の中を見回してみる。

 掃除が行き届いた畳と|襖《ふすま》。

 そして、庭に面した障子も縁側も、良く磨かれて木目がきちんと見えた。

 床の間には簡素だが凛とした枝が活けられ、掛け軸には見たことがない異国の文字で何かが書きつけられている。

「これは、異国の言葉かな。もしかして、飛垣家に伝わる呪文と関係があるのだろうか。 」

 死を覚悟してから先の記憶が曖昧になっていたが、例の呪文を唱え、直接頭に響くような声を聞いたことは微かに覚えていた。

「俺は、呪文に応えた何かに救われた。あれが何だったのか知りたいものだ。あの少年と少女、そして立派なご主人が教えてくれるのだろう。 」

 茫洋としていた意識は、次第にはっきりして来た。

 茶漬けが腹の底まで染み入っていくのが分かった。

「お加減は、いかがですか。 」

 先ほどのニッコウが不意に声をかけてきた。

 さっきから、3人とも全く足音を立てないので、不意にいなくなったり現れたりするように感じた。

「かたじけない。空腹のあまり、失礼をしました。拙者は飛垣源次。北条氏の旗本、池田氏に仕えておりまする。このような厚遇に与かり、何とお礼を申して良いやら…… 」

「顔色が明るくなりましたね。そう堅くならずに。我々は源次殿の味方です。 」

 ニッコリと、屈託なく笑い、先ほどのジクウと同じように歯を見せた。

「お口に合いましたでしょうか。本来精進料理を出すべきかも知れませんが、精の着く魚をご用意いたしましたが。」

「いやいや。そのようなお心遣いを。ところで、お聞きしてもよろしいでしょうか。 」

「何なりと。 」

「某の名を、なぜご存じだったのでしょうか。そして、死の淵にいたはずが、どうしてここに。 」

 ニッコウは口を結んで黙ったまま、庭に目を遣った。

「先ほどから、拝見しておりますが、立派な庭。そして室内もよく手入れが行き届いておりますな。 」

 しばらく2人は庭を見つめたまま、むっつりと押し黙った。

 少しずつ陽が傾き、肌寒さを感じ始めた。

「秋の夕暮れは、冷えますね。障子を閉めましょう。 」

 ニッコウは立ち上がり、障子をピシャリと閉めた。

 そして、深刻な顔を見せた。

「すみません。どこからお話するべきか、思案しておりました。 」

 源次は何も言わず、言葉を待った。

「この、現世の有様を、どうお感じになりますか。 」

 室内に差していた陽が退くと、急に寒さを感じた。

 そして、不意にこの国を憂う気持を表情に湛え、眼差しを強くした。

「地獄也。 」

 簡潔に答えた。

「これから、どうなって行くでしょうか。 」

 ニッコウが顔を上げ、正面から射るような眼差しを向けた。

「願わくば、我が手で国を救いたい。だが、拙者にはその力が足らぬ。それが悔しいのだ。 」

 源次が拳を握りしめると、ギリギリと皮膚が擦れる音を立てた。

「覚悟はありますか。 」

「無論。元より捨てた命。失うものなどありますまい。 」

 ニッコウが小さく頷き、音もなく立ち上がって部屋を出て行った。

 その夜はそのまま眠りに落ちた。

 

|祓魔師《ふつまし》の修行

 

 翌朝3時に床を出た。

 まだ外は漆黒の闇で、美しい虫の音が溢れていた。

 庭に降りてみると、ジクウとアシュラが桶と天秤棒を用意していた。

 どうやら4人分あるようだ。

「もしかして、某の分も用意していただいたのか。 」

「そうです。道すがらお話しましょう。 」

 ジクウが作業の手を止めずに答えた。

「一緒に水汲みをしましょう。私もご一緒します。ニッコウ様はいつも別の水場まで行って独自の修行をなさるので、道具だけご用意しています。 」

 修行という言葉を聞いてピンと来た。

 寺の修行で、水汲みをした後雑巾がけをして、足腰の鍛錬をすると聞いたことがある。

「なるほど。良い鍛錬になりそうだな。 」

「ではっ。山道を泉まで登って行きます。 」

 ジクウが先頭をきって走り始めた。

「おうっ。望むところ。 」

 源次とアシュラが後に続く。

「源次さん。改めまして。自分はジクウと言います。我々の名は音しかありません。文字に書くことをしたことがないので、書くときは適当に当て字をします。 」

「なるほど。まるでマントラだな。 」

 源次はマントラが話の鍵になると思って、敢えて言った。

 呪文と呼んでいるマントラが、異国の言葉に当て字をしたものだと聞いたことがある。

「はは。まずは自己紹介させてください。歳は18。法力値は5,300です。 」

 さらりと言ったジクウの言葉に、不可解な点があった。

「今、法力値と? 」

「私は16歳。法力値は1,200です。普通、僧侶は100未満なんですよ。伝説的な祓魔師でも200あれば相当な者です。なぁんてね。自慢しちゃいました。えへっ。 」

 質問には答えてくれなかった。

 法力値とは、僧侶の実力を表しているようだ。

 何らかの手段で数値にしている。

 どこで、どうやって測るのだろうか。

 そんなことを考えたが、話を合わせることにした。

「拙者は飛垣源次。もう知っているな。20歳だ。老けて見られるが、あまり歳は変わらないのだ。 」

 3人は走りながら顔を見合わせて、ニッコリ笑い合った。

「では、ニッコウ様は相当な法力値なのだろうな。 」

「推定で45,000です。歳は38歳。金剛高野山大僧都にして、我々東の祓魔師を束ねる存在です。 」

 こうしている間に泉に到着した。

 恐らく2里程の山道を走りきった。

「はあっ。はあっ。 」

 源次は息を切らしたが、2人はケロッとしている。

「ふふ。毎日続けていれば、居眠りしながらでもできるようになりますから。 」

 察したアシュラが笑いかけた。

「凄いものだな。君たちは山伏か? 」

「|祓魔師《ふつまし》ですよ。妖魔と戦うのが仕事です。 」

 両天秤の桶に、半分ほど水を汲んだ。

 衝撃を与えると水が跳ね、こぼれてしまう。

「さあ、ここからが修行です。水を桶の中で回す意念を持って走れば|零《こぼ》れません。 」

 アシュラも軽々と天秤を担ぎ、こちらを心配そうに見た。

 桶には8分ほどの水が満たされていた。

「初めての方なら、半分運べれば凄いと思います。気負わずにゆっくり行きましょう。 」

 ジクウも微笑みながら頷いた。

 2人は始めから、源次のペースに合わせるつもりでいてくれたのだ。

「すまぬな。足手まといにならないよう、頑張るよ。 」

 下りは登りよりも足に負荷がかかる。

 重力に引っ張られて楽だと思い込んで無茶をすると、足にダメージが蓄積してしまうのだ。

 源次は言われた通り、桶を回すようにして水が飛び出さないように気を遣いながら走った。

 途中、河の飛び石を渡ったり、絶壁のようなところを滑り降りたりもする。

 バシャバシャとかなり零してしまった。

「ところで、妖魔と戦うと言っていたが、どこでどうやって戦うのだ? 」

「今度、一緒に行くことになりますから、実際に戦いを見てください。 」

「あれ? 次はジクウの番だったわね…… 源次さんが行くなら、私も行きたいわ。 」

「ああ。そのつもりだよ。交代で仕事をしているのです。ニッコウ様が急に寺を空けることもありますから、1人は残るのですけど、今度は源次さんを守りながらになりますから、万一を考えて2人で行きます。 」

 ここでも、源次に気を遣ってくれていることを知った。

 なんだか肩身が狭い思いを感じた。

「拙者にもできることはないだろうか? 」

 敗北感で一杯の気持を奮い立たせて聞いてみた。

「ニッコウ様が、源次さんのマントラを感じ取ったときに、かなりの才能があると言ってましたよ。期待しています。 」

「それは、剣術のことかな。それとも法力があるのかな。 」

「そこは、きっとこれから分かるわ。 」

 アシュラの声は明るかった。

 3人はしばらく押し黙って走った。

 源次は頭の中を整理してみた。

 林の中で聞こえた天の声は、ニッコウの声だったようだ。

 つまり、飛垣家に伝わるマントラがニッコウ自身、あるいはその守護神に通じる呪文だったのだ。

 東の祓魔師を束ねる大僧都に通じるのだから、飛垣家の先祖は祓魔師と深い繋がりがあったのだろう。

 そして法力値という言葉。

 これは妖魔と戦うときに発揮する何らかの力を表わすと思われる。

 アシュラの話からすると、3人はとてつもない力を持っているようだ。

 きっと想像を絶する戦いが待っているのだろう。

 すでに全ての話が現実離れしているが。

 そして寺と言っていた。

 寝泊まりしている場所が寺かも知れないと思ったが、マントラを使って繋がったこと、そして「金剛高野山大僧都」という|件《くだり》から真言密教の流れを汲んでいることがわかる。

 マントラとはどういうものなのだろうか。

 そして、祓魔師の力とは。 妖魔とはどこに現れるものなのか。

 これらは近いうちに分かりそうだ。

「……さん。源次さん。 」

「んっ。ああ。すまない。考え事をしていた。 」

「寺に着いたら|朝餉《あさげ》にして、剣術の稽古もしましょう。 」

 ジクウがニッコリと笑って言ってくれた。

「ああ。願ってもない。是非頼むよ。今度は山賊などに、後れを取りたくないからな。 」

 朝餉は軽めに済ませた。

 すぐに庭に出ると、アシュラが木刀を2本用意して来た。

「まずは私が稽古するわ。構えてみてください。 」

 源次はいつものように、前のめり気味になって、剣を右脇に引き、切先を相手の喉元辺りに付けて構えた。

「なるほど。実戦的な構えだわ。」

 これは、見よう見まねで最も実戦的だと思われる形を取ったものである。

「ただ、力が入ってしまっています。山賊と戦って、生き延びたときのことを、思い出してください。 」

「あのときは、自分が死んだものと思って脱力していた。多分|涎《よだれ》を垂らすほど力が抜けて、揺らぐ身体を背の芯で支えている感じだったと思う。そして握り方…… 」

「そうよ。薬指と小指に力を込めて刀身を支えるんです。 」

「なるほど。確かにこうすれば、どんな方向にも振れそうな気がする。 」

「源次さんの構えは、突きに特化した構えだわ。だから、振り回すには一度刀を前に出す必要があります。 」

 刀を身体の中心に構えると、自然に体が真っ直ぐに立つ。

「これが基本中の基本、青眼の構え。では、遠慮なく打ち込んでみてください。 」

 一つ一つの指導が理にかなっていた。

 そして、まずは基本の青眼の構え。

 言われるままに身体を動かし、脱力しようと頑張ってみた。

「いざっ。そりゃあぁぁ! 」

 しかし、肩の力が抜けず、死の淵で感じた動きには程遠かった。

「これでは、戦場で生き延びられないな。 」

「焦ることないわ。まずは素振りと、足運びを徹底的にやりましょう。 」

 こうして、朝3時に水汲み修行。

 昼間は剣術の基本。

 そして合間にマントラを唱えて心を鎮める修行。

 考えてみれば、長年源次が待ち望んでいた生活だった。

 

祓魔師の|業《わざ》

 

「ジクウ…… お前だけは…… 八つ裂きにしてやるぅ…… 」

 暗闇の中に2つの赤い光が、爛々と|煌《きら》めいている。

 両手の鈎爪に舌を這わせ、不気味に口元を開いて涎を垂らしていた。

「おいっ。今呼んだか? 」

 妖魔は赤い眼を背後に回した。

 同時に2間ほど横に飛び、間合いを取った。

「ひひひっ。お前の方から来るとはなぁ。 」

 妖魔は周囲を見渡した。

「くくっ。あれが今夜の餌かぁ。 」

「腹減ったぁ。頭は俺にくれ! 」

 黒い影が次々に現れた。

「2,3、4,5…… 俺って人気者? 」

「こらっ! 油断するとまた怪我するよ! 」

 アシュラがジクウを小突いた。

「イテッ! ボクは暴力が嫌いなんだよぅ。 」

「ふざけるなあああぁぁ!!! 」

 怒った妖魔たちが一斉に踊り掛かった!

「さあてっと…… 」

 一瞬ジクウが目を閉じると、辺り一帯が光に包まれる!

「オーン アモーガ ヴィジャヤ フゥーン パットォォォォ!!! 聖なる絹と、聖なる網を以て衆生を導く不空羂索観音よ! 金剛界より来たりて彷徨える魂を捕らえたまえ!!! 」

 両手で結んだ印が、光の輪に包まれる!

 そして、光が徐々に晴れていった……

「おお! 妖魔を捕らえたのだな。まさに一網打尽。いや。お見事。法力とはこうやって使うものなのか。 」

 源次は拍手をしながら近づいて行く。

「ダメよ! 私が止めを刺すから下がって!! 」

「ああ。すまん。また邪魔したな。 」

「オーン アグナイェ スヴァーハー!! 炎を統べる地獄のアシュラよ! 火天の業火よ! 我に従い妖魔を焼き尽くせ!! 」

 印を中心にして、炎の渦が起こり、妖魔を包んだ!

「ぐぎゃあぁぁぁ!! 」

 一瞬で焼き尽くされた妖魔たちは消え去り、また闇が支配した……

「ああぁ。何か、淡白じゃない? もっとこう…… 源次さんが喜ぶような演出をさぁ。せっかく縛ったんだしさぁ。 」

「もう! 真面目にやりなさい! 」

 こうして、源次は妖魔との戦いに足を踏み入れて行くことになる。

 だがこれは戦い前夜の、ほんの一時の馴れ合いだった。

 

 

この物語はフィクションです。



プラハにプラッと行ってきました

今週のお題「好きな街」

東欧「チェコ」の首都プラハ

海外旅行へ行くなら、おすすめスポットの一つである。

プラハの魅力は、何といっても路面電車

フリーパスを買ったら、縦横無尽に街を行き来して、

街並みを眺めるだけでも心安らぐというものである。

町全体が旧市街で、

食べ物もおいしい。

一人旅をして、路面電車で移動し、

プラハ城、博物館、そしてチェコ語で「ムハ」と呼ぶ

アルフォンス・ミュシャ」のポスターに囲まれた街並みや、

美術館見学。

そしてカレル橋は石畳と医師の欄干があり、

彫刻が並べられている。

飲食店に入って、黙っているとビールが出てくる。

ちょっとだけ勉強したチェコ語の知識で街の看板を読み解き、

疲れたら路面電車で街並みを楽しむ。

いつまでいても飽きない街だった。

 

夢の変遷

 幼稚園の頃、集団に適応できなくて、早くも不登園になった。

 そんな自分に気を遣って心にもないことを言ったり、嫌いな牛乳をオレンジジュースに替えてくれたりする気遣いは、本質的な解決にならないし、もっと厳しくしてくれても挫けるような自分じゃないと思うような、鼻息荒い変な幼児だった。

 周りに合わせて人間の絵を黒と肌色(当時の呼び方)で描くことが納得いかなくて、青とオレンジで描いて叱られた。

 自分は絵の世界で生きて行くことだけはないと思った。

 

 小学生の頃、飲食店を経営することを夢見ていた。

 ラーメンを自分で作って食べたりしていた。

 台所仕事は小さい頃から毎日手伝っていたので、ある程度自信があった。

 

 中学生になって、順位が示されたことで自分がかなりの秀才だったことに気付いた。

 考えてみれば、テストはいつも満点だった。

 テストはのび太君以外みんな満点を取っていると思い込んでいた。

 自己肯定感が低かった自分にとって、周りから一目置かれることが心地良くなった。

 その頃、医療関係の仕事も考え始めた。

 自宅で自営業をして、自分で仕事をコントロールできる生活をしたいと思っていた。

 高校に進学するとき、学力以外の要素で進学先を決めた。

 結果的に正しい選択だった。

 

 高校に入って、知的な趣味を持つ友人が沢山出来て、弁護士を目指すべきだと言われた。

 論理的な考え方をすることを指摘されて、自分がそんな人間だったのかと感心した。

 弁護士業界のことはあまり知らなかった。

 犯罪者なども、クライアントになると知って抵抗を感じた。

 正義には、人一倍こだわりがあった。

 人権を守る、ということを理解していなかった。

 その頃、自分の意識を広い世界に開いていくことが肝心だと思っていた。

 目の前の日常から離れ、自分の可能性を究め、限界を超えて行きたい。

 そんなイメージを持って、海外へ行くことを夢見ていた。

 そして、自分が不得意な分野に足を踏み出し、クリエイティブを求めるという無茶と向き合い、数年間のたうち回るような日々が待っていた。

 多分それも必然であり、それを乗り越えられることを知っていたのかも知れない。

夢はまだ破れていない。キミには公園がある。

今週のお題「好きな公園」

「不要不急の外出を避けなくてはならない」

こんなことを政府から言われることを

だれが想定しただろうか

自分も天地がひっくり返ったような気分だった

元々出不精だし

家で引き籠ることが夢だが

小さな子ども2人が毎日家にいることが大問題だった

外で元気いっぱいに遊びたい盛りの子どもたちは

家の中で暴れまわり

「キャー」

などと全力で叫び続ける

そして

機嫌が悪くなると

耳元までやって来て

何時間でも大声を出しジャンプしながら泣き続ける

子育てを抱えた家庭なら

どこも似たようなものだろう

我が家には専業主婦がいる分だけマシかも知れない

共働きの家で

リモートワークを強いられていたら

仕事に支障が出るだけでなく

子どもにノイローゼにさせられるのではないか

そんな最悪の状況ではないにしても

子どものガス抜きは急務である

困ったことにドライブする自動車はない

とにかく子どもを散歩に連れ出して疲れさせるしかなかった

2歳の子どもを10キロほど歩かせるのは

かなり田舎の家でも珍しいのではないだろうか

だがそれをやらなくてはいけない

始めは歩く速度が遅くて

何度も転んだが

毎日続けるうちに変化が起きた

体幹が強くなって転ばなくなったのである

ずっと手を繋いでいるせいか

肩回りががっしりとしてきた

歩く姿も軸のブレがなくなり

足が滑らかな動きをするようになる

そんな散歩の行先は

アスレチックがある公園だった

周囲1キロ以上ある沼のほとりにあって

毎週イベントが開かれている

大きな公園である

そこで体に合わない遊具にしがみつき

懸命に遊ぶ子ども

その傍らでコーヒーブレイクで一服している自分

そんなひと時が日常になった

今では2人ともボルダリングが大好きになり

友達とじゃれ合っている時に足腰の強さを発揮するようになってしまった

ドリルについて

 大まかには3つ意味がある。

 その中で「訓練」について取り上げる。  

 計算ドリル、漢字ドリルなど、小学生向けの教材が始めに思い浮かぶ。

 四則計算を何度も繰り返し、身体に染み付くまで反射神経で解くのである。

 これは寺子屋のような発想で、定型化した練習メニューを繰り返すのは日本人の特徴である。

 近所の幼馴染の家が公文式の塾だったので、遊びに行くとドリルのような計算問題を沢山解いた。

 自分は凝り性で、負けん気も人一倍強いからか、暗算にかける情熱は凄かった。

 普段から自動車のナンバープレートなど、数字を見ると足して引いて掛けて割る、というルーティーンを繰り返してトレーニングをしていた。

 だからドリルとは相性が良くて、計算が速くて正確だと言われた。

 文系の道を志したが、数学がいつも100点だったのはドリルの効果だと思っている。

スローテンポについて

 「スローテレビ」をご存じでしょうか。

 ノルウェー放送協会がベルゲン線の運転席から見える風景を7時間に渡って放送したのが現在のスローテレビの始まりと言われています。

 定点カメラで撮影した映像を流しっぱなしにするという企画は大ヒットしました。

 そのシリーズで印象深いのは、暖炉を撮影した映像です。

 Netflixでも放送されました。

 暖炉に薪がくべられ、火をつけ、燃え尽きるまでを放送しています。

 この企画が注目された理由は、SNSなど他のメディアに暖炉の状況を上げるユーザーによるところが大きいと思います。

 暖炉の薪が崩れて火の粉が飛ぶと、驚きの声が書きこまれ、細かな変化を見逃すまいと誰もがテレビに釘付けだったのです。

 この企画はとても現代的なコンセプトだと思います。

 同様の趣旨の現代アートの多くとは違い、具体的に世の中に強烈なインパクトを与え、人々を動かす力を持っています。

 映像を意図的なメッセージと捉えるのではなく、徹底的に表現しようとする意志を排除したのです。

 そして世界中に衝撃を与え、一つのジャンルとして確立したのです。

 ここには「自分なりに感じ取ってくれればいいのです」という無責任とも取れる思想はなく、とても自然で嫌味のない情報発信の方法を気付かせてくれました。

 スローテレビを見てから、スペインのバルの公開監視カメラを見ると、スペインの生活の息吹を感じてとても魅力的に見えました。

スイートピーについて

 パステルカラーの品種は花束に良く用いられている。

 とても華やかで明るいイメージの花である。

 調べてみると、赤、オレンジなど色鮮やかでしっかりと見える花をつけるものもある。

 つるの巻きひげが印象的だが、巻きひげがない品種もあるようだ。

 新社会人にお祝いとして贈ることも多い。

 花を誰かに贈るということは、その行為自体が目的になる。

 切り花は、すぐに腐るので、貰ったらすぐに水きりをするなど養生しないといけないし、水を毎日替えても日持ちがしない。

 だから出先で貰うときにはそこを考えてしまう。

タイムマシンについて

 時間を巻き戻してやり直すことができたら、戻りたい過去があるでしょうか。

 自分にはすぐ思いつくことがありません。

 戻れるのなら、別の人生を誕生からやり直してみたい、と少しだけ思いますが、ただの興味本位です。

 ついでに言うと、外国に生まれて、異文化の中で暮らしたらどうなるのかにも興味があります。

 しかし、これらは現在の人生があるから生じた興味なので、本当に人生をやり直したら満足したらはしないはずです。

 タイムマシンには、人生の一場面を見る目的以外にも、自分がいない過去へ行くことも想定されます。

 その場合には、ある程度安全で、楽しめる過去にしないと思わぬ危険があるでしょう。

 例えば太古の世界に戻ったとき、気候の違い、未知の病原菌によってすぐに死ぬかもしれません。

 自由に過去に戻ることができたら、あるいは未来へ行くことができたら、とてもロマンチックなことだと思います。

 それと現実的な問題を天秤にかけて、ストーリーを考えると、深みのある物語になると思います。

畜産業について

 

 畜産業では牛や豚、鶏などを飼って、肉や牛乳、タマゴなどを出荷する。

 自分は子どもの頃、身近で牛や豚を見ることができた。

 牛は、のんびりしているようで、意外と人懐こいもので、人が柵の近くに来ると寄って来たりする。

 柵には電気が流れているので、牛は決して柵に触れたりはしない。

 屠殺場も、豚と牛がそれぞれ近くにあったので、豚の悲痛な鳴き声が聞こえたり、牛が赤裸にされ吊るされた光景を見たりした。

 子ども心にも、残酷な現実に厳かな気分になったものだ。

 動物を食料にすることは、人間が生きていくために仕方がないことであって、食卓に登る肉をどのようにして作っているかを子供の頃から教えることは重要である。

 生きるために命を奪っている現実を知ることによって、命の尊さを知ることができるからだ。

 このようなことを考えるとき、人づてに聞いた「子犬を放り投げてキャッチボールして遊ぶ子ども」のことを考えてしまう。

 取りそこなって地面に叩きつけられる恐怖に怯える子犬を面白がって弄ぶ子どもたち。

 恐ろしいことだ。

 小さな弱い生き物を虐めるのは、命の大切さを知らないからである。

無断転載について

 「著作物を無断転載することは禁止されている」

 という文脈が「無断転載」に含まれている。

 しかし、著作権に関するエッセイ等で書いたが、それは原則ではない。

 「著作物=保護の対象」であることに間違いはないが、見落としがある。

 著作者が無断転載を希望する場合である。

 著作権法の目的は文化を発展させることだ。

 著作物を無暗に保護することが、文化を発展させるのだろうか。

 「表現の自由」はとても重い権利である。

 例えば、個人情報が漏洩して、訴訟が起こっても拡散した情報を半分くらいしか削除できないのは、表現の自由と天秤にかけて判断するからである。

 著作物を引用するときにも、許可を得るべきだがすべてがその通りにやっているわけではなさそうだ。

 事実、有名大学、報道機関、果ては法務局まで不正表示や無断転載で訴えられた。

 有名な事例だけでも枚挙に暇がないのだから、無断転載は日常的に行われていると見ていいだろう。

 しかし、そのような判例と身近な無断転載を同じフェーズで考えるのは間違いである。

 前提として、利害関係がどうなっているのかが明確でなければいけないし、現著作者の意志を確認しなくては事件になるとも限らない。

急須について

 急須でお茶を淹れる機会が全くなくなった。

 会社でも、会議でペットボトルのお茶を用意し、来客にはティーバッグのお茶を用意する。

 だから茶柱は立たない。

 お茶屋さんの前を通ったとき、急須でお茶を淹れてもらった。

 プロは、物凄い勢いで急須をくるくる回し、お茶をあっという間に入れて見せた。

 こんなやり方があるのか、と思って自分でもやってみたくなった。

 急須は中身を回して入れるようにできていたことにも気付いた。

 ハンドルが付いていて、なぜこんなに大袈裟な持ち手なのか不思議に思っていた。

 その謎がお茶屋さんの仕草を見て解けたのだ。

 お茶淹れの全国大会もあって、その方が淹れるところを映像で見る機会があった。

 ゆったりした動作だったが、無駄がなく、やはり「茶の湯」の世界を感じさせるものだった。

 こんな深い世界を垣間見て、お茶に対する認識が変わると、この世の崇高なものに触れた気がしてエネルギーを貰えた。

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