久しぶりに故郷に帰って来た私は、島の入口にあるホテルを予約していた。
東京の大学へ行ってから、
「ときどき会いにくるよ」
と言ったきり、忙しさにかまけて疎遠になっていた。
雄吾は高校時代と同じ、島の男という雰囲気を醸し出す。
「やあ。
久しぶり」
私は小説を書いて文学賞を獲った。
映画化の声もかかって、雑誌へ連載も始まった。
「ごめん、今度対談する人の動画を見ておかなくちゃいけなくて」
持ってきたノートパソコンに目を向けたまま、雄吾に尋ねた。
「彼女でもできた」
少し間が空いた。
「おまえ、変わったな」
調子に棘がある。
つられて私も苛立った。
「何よ、忙しい合間に時間を作って来たのに」
「誰も頼んでないだろ」
しまった。
ながら話で、本題を言うまえに雰囲気を損ねた。
もうどうでも良くなった。
「ねえ、神様って信じてる」
「はあ?」
東京の駅前でもらった本を読んでから、宗教にハマり始めていた。
「こころの隙間を埋めてくれるの。
この本読んでみて」
差し出した本を平手で撃ち落とし、雄吾は出て行った。