車椅子に移乗するときに、どうしても人間一人分の体重を持ち上げなくてはならなくなる。
寝たきりの人は体重が落ちているとはいえ、米30キロよりは重い。
30キロのお米を持ち上げるには、相当な力がいることを想像していただきたい。
世の中には50キロのダンベルでアームカールをやるゴリマッチョな方もいるが、自分はせいぜい頑張って15キロまでである。
理学療法士さんなどのように、専門的な教育を受けていない。
NHKの番組で介助のしかたを見たが、見てすぐできるほど甘くはない。
そこで役に立ったのが、長年やってきた武道だった。
武道をある程度やった人は、中腰のような姿勢で腰を落としたままでいても、へっちゃらになる。
これは、脚力とか、筋肉量の問題ではない。
武道で培われる身体操作法によるものである。
自分は世界チャンピオンから長年指導を受け、中国武術の身体操作法なども取り入れていたため、いささか自信があった。
自分の体に染みついた方法論で、母を持ち上げたところ、ほとんど力を使わずに移乗させられことに気付いた。
腰にもまったく負荷がかからない。
大学病院の先生の前で、移乗させたとき、
「お上手ですね」
と褒められた。