宇宙神エマⅢ・ディアプトラ ~UCHUJINEMA~

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※本作品「宇宙神エマ・ディアプトラ ~UCHUJINEMA~」は前作「宇宙神エマ・フィキメイシア ~UCHUJINEMA~」の続編です。まだお読みでない方は、ぜひそちらも読んでみてください。

 

神の力

 

「エマ。ゼノン父さんの能力ってどんな力なのかな? 」

 中山直也が夕食を摂りながら、疑問を口にした。

 直也とエマは、地球から20万キロ彼方にあるエデンで夫婦の誓いを立てた。

 だがまだ20歳にならないため、日本の法律上は中山家の子どもであり、未成年者である。

 ちなみに実子である直也と、養子のエマは問題なく結婚できる。

 もう一人中山愛も同じ高校に通い、同じ予備校にも通っている。

 3人は神の一族である。

 直也は風の神、エマは炎の神、愛は美の女神である。

 そして神の一族は、超人的な力をもっているため、すべてにおいて人間よりも優れた力を発揮することができるのだ。

 直也が緊迫したムードで話すので、エマはハッとした。

「どうしたの? 急に」

「いや。自分なりに考えてみたのだけど、全能の神はすべての能力を兼ね備えているんでしょう。それは、すべてを兼ねた能力を発揮するのか、別々にすべての能力を選んで使うのか、どっちだろうって…… 」

「そういうことね…… 何でも選んで使えるって感じだけど、私も見たことがない能力を持っているらしいわ…… 」

「へえ。やっぱり全能の神は凄いんだね」

「うん。パパは神の一族の中でも特別な存在なの。でもね。一番使う能力は風の能力なのよ」

「そうそう。風の能力が最強って言ってたけど、どんな能力があるの? 」

「風は、『空気』を操る能力なのよ。神も人間も、空気がなければ生きていけないの。だから、空気を握れたら、日常生活でも、戦闘でも無敵なのよ」

「そうなんだね。うん。自分に宿る力で何ができるのかを考えているのだけど、スケールが大きくてイメージできないんだよ…… 」

「パパは、空気がない場所に長く滞在するときに風の力を使うわ。未知の場所へ移動するときには、空気を交換しながら移動するんだけど、風の力を使えば大人数を一度に運べるの。あとは惑星の空気の組成をある程度コントロールできるわ。本当に便利な能力よ」

「宇宙の調査をするときに、一番必要な能力になりそうだね。あと、神の力は鍛えられるのかな? 使えば使うほどレベルアップするみたいな感じで…… 」

「そうね。鍛えるというより、状況に適応していくと考えた方が良いかもしれないわ」

「なるほど。じゃあ。いろんな状況に自分の身を置けば、能力のバリエーションが増えるのかな」

「そう考えられるわね。もともと自分の中に眠っている力が、必要に応じて覚醒するのだと思うわ」

 他にも知りたいことは山ほどある。

 エデンで会った神以外に、どんな能力を持った神がいるのか。

 エマが帰ってきて1か月ほどたった。

 心の傷は癒えていないが、そろそろ神の一族のためにできることを考えなくてはならないと思っていた。

 地球にいる神は、中山家の3人と、他に剛田武がいる。

 武は人付き合いが苦手なタイプなので、独り暮らしをしていた。

 戦いの神であり、好戦的な態度を取るため、エマとは相性が悪い。

 最近は愛との関係が上手くいくようになって、よく笑顔を見せるようになってきた。

「そ…… そういえば、ウラノスはどうしてるの? 」

 ウラノスの暴走によって、エマが死を覚悟した経緯がある。

 そのとき直也が負った心の傷は深く、思いだすだけで身体が不調を起こすようになっていた。

 ゼノンに捕まったウラノスは、ただでは済まないだろう。

「大丈夫? 無理に考える必要ははいわ。パパとアポロ様がいれば、何もできはしないわ」

「うん。まだ生きていて、悪企みをしているんじゃないかって思ったんだ…… 」

「…… 」

 エマは黙り込んでしまった。

「やっぱりそうなんだね。本当に何でもなければ、気軽に話してくれたはず。ここまで話せなかったのは、重大な事件が起きつつあるからだ」

「もしかしらたら…… ナオヤ。近いうちに私たちの力が、必要になるかもしれないの」

「そこまで聞いたら、心配になってきたよ…… 」

「でしょうね。私が知っていることを話すわ」

 愛に、先に寝室へ行くように促すと、寝る支度をしてから直也の部屋に上った。

「まず。ウラノスのことだけど、宇宙を統べる力を持つ『天空神』と呼ばれているの。父ゼノンに次ぐ強大な力を持つ神なのよ。火・水・風・土の4大元素を操る能力を持っているの」

「アポロ様の配下の神だと聞いたけど、そんなに凄い神がなぜ下についたのかな? 」

「地球の人間を危険視して、滅ぼすべきだと主張していたから、アポロ様の監視下に置かれたのよ。太陽神の力は、戦いにおいては絶対的な強さがあるから、いかにウラノスが強くても、アポロ様には1目置いていたの」

「じゃあ。あのときエマとマルスの2人でウラノスを追ったこと自体が、すでに君とマルスを追い詰めていたんじゃないか? 」

「あとのきは、ウラノスと直接戦闘になるとは思ってなかったし、話せばわかると思っていたの。それにね、話がこじれて戦闘が起こったとしても、マルスは強いから決して引けは取らないわ。そして、アポロ様とパパも控えているしね」

マルスこと武は燃えたぎる血のようなネフェーロマを持つ神だし、戦いに長けていそうだけど、ウラノスと戦えるほどなのかな? 」

「多分、アポロ様に匹敵する戦いの才能を持っているわ。ネフェーロマの力を借りなくても、ナチュラルに強いのよ。戦いの神と呼ばれているのは、伊達じゃないわ」

「なるほど。俺とエマが入り込む隙があるのかな…… ウラノスは風と火も操るし、他の元素も操れるんだから…… 」

「ネフェーロマだけで、神の能力が決まるわけじゃないのよ。私だってこう見えて、ケンカには結構自信あるんだから」

「あはは…… 頼もしいな。俺もちょっと鍛えたくなってきたな…… 」

「焦らなくても大丈夫よ。でも、そういうことなら、戦いの神である武に聞くのが手っ取り早いんじゃないかな」

「よし。本当に格闘技にも興味がでてきたよ…… 明日聞いてみよう」

「ふふふ。またエデンに呼ばれることになるでしょうから、新しい情報があるかもしれないわ。それまで戦闘訓練をしておこうね」

「ああ。勉強も忙しいが、そっちも重要だ。おやすみ…… 」

「また明日ね…… 」

 

「ピピピピ…… 」

「カチッ」

「ううぅん…… よく寝た」

 朝4時に目覚まし時計が鳴る。

 エマがいなくなったとき、絶望感と向き合えずに、勉強に没頭することで何とか自分を維持していた。

 東京大学工学部、航空宇宙工学科……

 壁に目標を書き、毎日読んで自分に刷り込んでいた。

 進学校である、稲村学園稲村高等学校に昼間は通い、放課後は大手予備校の東大クラスで毎日勉強して夜遅く帰宅するが、朝は4時に起きて勉強していた。

「正直なところ、もうあまり勉強に没頭していなくても、合格できる学力があるんだよな…… どうせ勉強するなら、もっと自分のためになることをやりたい…… 」

「おはよう。ナオヤ。今日も勉強ご苦労様」

 エマが部屋にやってきた。

「エマ。考えてみたんだけどさ。東大を目指して猛勉強しなくても、良いような気がするんだ」

「うん。神の力を持っているんだから、自分で勉強すれば充分だと思うよ。私たちが一緒に予備校へ行っているのは、ナオヤの生活に合せてのことだしね…… 」

「よし。ちょっと外を走っくるよ」

 ジョギングをする支度をした。

「それじゃあ、私はお弁当の仕込みをしてくるわ」

 夏は、夜明けが早い。

 すでに薄明るくなっていた。

 高校を過ぎて、大きな川の堤防に着いた。

 あっという間に10キロほど走ってしまった。

「これも、神の力の影響なのかな…… 本気で走った感じではないのに、30分ほどで10キロ。マラソンなら世界記録ペースに近い…… これでは、エマが努力する意味を感じないわけだ…… 俺もすでに人間のレベルではないんだな…… 」

 外を走っていると、さまざまな発見があった。

 まず、ジョギングするランナーや、散歩をする人、犬を連れた人がたくさんいた。

「朝は静かで誰もいないと思っていたが、住宅地を出ればこんなにたくさんの人たちがいたのか…… 」

 そして、野の草花が季節を感じさせる。

 池には蓮が美しいピンクの花を咲かせていた。

 その一角が、まるで異世界への入口のような、幻想的な風景に変わっている……

「田んぼにはすでに稲が植えてある…… どんどん大きくなって稲穂が実をつけるのが楽しみになってきたな…… 」

 今まで自分を高めるために1日の大半を費やしていた。

 それはこれからも変わらないが、大事なものを置き去りにしていた気がしたのだった。

「地球の人たちは、俺と同じ時間を共有している。それぞれに人生があって、今という時間は二度とない。そして四季折々の美しさがあるこの自然…… 」

 河原へ降りると、周りに人がいないことを確認してから、ネフェーロマを出してみた。

「オオォ…… 」

 意識を集中して、風を起こす……

 辺り一面の草がなぎ倒され、川の水が跳ね上がった……

「風よ、巻け! 天空へとその聖なる力を滾らせ、吹き清めよ! 」

 上空へと向けて、少しだけ力を放った。

 ゴオオォォ……

 うなりを上げて、つむじ風が川の水を巻き上げた。

「あっ。まずい。風よ! 川へ水を戻せ! 」

 バシャアアァァ……

「うわっ! やっちまった…… 」

 直也は勢いあまって自分も水を被ってしまった……

「夏で良かった。風で乾かそう…… 」

 家に帰ると、エマにテレパシーを送って着替えを用意してもらい、身体を洗った。

「どうしたの? 」

「ちょっと川でネフェーロマを使ってみたら、川の水を被ってこのザマだよ…… 」

「気を付けてね。風は強力な力だから、何でも吹き飛ばしちゃうのよ…… 」

「どこかで力を使う練習をしたいな…… 」

「地球では全力を出しにくいから、エデンでやろうよ」

「直也。エマちゃん。おはよう」

 母が起きてきた。

「それじゃあ。先に行ってきまあす! 」

 愛が家をでた。

 朝、学校で武と一緒に勉強をするためである。

「うむ。俺たちも朝食をとって学校へいこう」

「直也。今日は外へ行って来たのか? 」

 父が起きてきて言った。

「ああ。外を走ってきたんだ。実は相談があるのだけど…… 」

「どうした。改まって」

「神の一族になったおかげで、大学受験の勉強は、もうしなくても楽に合格できる力がついているんだ。自分に必要なことは、力を操るための訓練と、格闘術を身につけることだと思うんだ」

「ふむ。直也がそういうなら、予備校はやめて、思ったようにやってみなさい」

「神の一族の使命を果たさなくちゃね。直也は人間のモノサシでは測れない世界で戦うのよね…… 」

 母が、当たり前のような顔をして言った……

「それじゃあ、手続きはムラマサさんに頼んで、今夜からやろうよ」

「そうね。朝食とったら学校で武と愛ちゃんにも相談しよう」

 

神の修行

 

 その日の夕方、早速エマと直也はエデンへ行った。

 もうフィシキは部屋の机に置いたままにしてきた。

 行先をイメージするだけで移動できる。

「ふう…… エデンには、伝えてあるわ。アポロ様とルナ様が稽古をつけてくれるわよ」

 アポロの神殿に向かうと、ルナが待っていた。

「ナオヤ。エマ。アポロが話をしたいそうよ」

 促されて神殿の中へ入った。

「ついにこの日がやってきたな…… ナオヤ。ゼフュロスを良く知るこのアポロに任せておけ。君に力の使い方を教えよう。その前に…… 」

「アポロ様。ウラノスの力についてはナオヤに話しました。何か新しい情報はありますか? 」

 エマが口を挟んだ。

「ああ。ウラノスのことは逐一密偵を送って調べている。今は火星にいるようだ。詳しいことは配下の神に聞きたまえ…… 」

 若い神がアポロに促されて入ってきた。

「エマ様。お久しぶりです。そしてナオヤ様。はじめまして。私はアルテミスと申します。狩猟と貞潔の神であり、ルナ様の能力も少しいただきました。『アル』とお呼びください。ナオヤ様の配下の神として、仕えさせていただきたいと存じます…… 」

「えっ…… えっと…… 」

「ナオヤ。とりあえず、苦しゅうない、でいいよ」

「ええっ!? こちらこそよろしくお願いしますです…… はい…… 」

「では。私にテレパシーを送っていただければ、すぐに馳せ参じます…… 失礼いたします」

「そういうことだ。アルは戦闘でも、優れた力を発揮する優秀な部下だ。君に預けよう」

 アポロはニッコリと笑って言った。

「アポロ様。今日は戦闘の稽古をつけていただきに来ました。よろしくお願いします」

「ああ。もちろんだ。ナオヤは自分と。エマはルナと手合わせしよう…… 」

 太陽神と手合わせをする。

 こう聞いただけで、期待感と同時に恐怖感も沸き起こってきた。

「ナオヤ。ちなみに武はパパと。愛ちゃんはママと稽古することになったの」

「そういうことか。緊張してきたな…… 」

「では、宇宙空間に出よう。ここから1万キロ離れた地点で行う! 」

 4人は目を閉じてイメージを共有した。

 目を開けるとほとんど真っ暗な空間に出た。

 周囲には星がくっきりと見える。

 地球上では大気があるため、星がまたたいたりして少しぼやけることがあるが、宇宙空間では驚くほど鮮明で、数が多い。

 そして一つ一つの星がとても小さなチリのように見えた。

 宇宙に出ると、孤独を感じるものだ。

 もしかすると、永遠に漂い続けるのではないか、と思ってしまう。

「宇宙空間は、ほぼ真空で気温は3ケルビン。つまりほぼ絶対零度だ。太陽光に当たると120℃になる。まともに浴びたら即死だ。それと大量の放射線もある。だから絶対にバリヤ―を破壊されてはならない。神といえども生身では耐えられん! 」

 アポロの声が飛んできた。

「それと、わかっていると思うが、攻撃は前からくるとは限らない。下と後ろを常に警戒しろ! 敵は相手の後方下側に回りたがるものだ! 」

「わかりました…… 」

「まずは、自分の方へ向けて風の力を使ってみろ! 遠慮はいらん」

「はい…… 」

 直也は目を閉じると、風が湧き上がるイメージを頭に描いた。

「ウオオオオォォ…… 」

 河原で使ったときよりも強く気を練り上げ、風をイメージする……

 アポロへ向けて手をかざし、掌の中心に全神経を集中した。

「風よ巻け! そして嵐となれ! 風神ゼフュロスの聖なるうねりで太陽神を吹き飛ばせ!! 」

 一気に風を解き放つ!

 ゴオオォォ…… !!!

「ふむ。なかなか…… ある程度使いこなしているようだな」

 アポロはゆったりとした動作で身をかわすと、風のうねりが彼方へと消えていった。

「では。次は自分と力比べをする。同じように力を放ってみろ! 」

 直也は同じように風を放った!

「ウオオオオオォォ…… 」

 アポロは目を煌めかせる。

「太陽系を統べる生命の源、ヒノカミよ…… 我に力を与えたまえ…… 」

 直也に向けて手をかざした!

太陽風! 」

 グオオオォォォ…… !!

 金色に煌めく美しい波動が、風を飲み込んだ!

 直也の風は消し飛んでしまった。

「ふん!! 」

 金色の波動が軌道を変え、彼方へと消えていった……

「まずは。全力で放つ練習からいこう」

 アポロはニヤリと笑った。

 

 100キロほど離れた地点にエマがいた。

「ルナ様。よろしくお願いします」

「エマ…… 月の属性は、力を転換する能力です。あなたの炎をどのように活かせるか、レクチャーしながら実戦形式でやりましょう…… 」

「では。参ります…… 」

 エマが手をかざし、掌に意識を集中する……

「ホノヤギハヤヲノカミよ…… 炎を統べる羅刹よ…… 現世に来たりて、すべてを焼きはらえ! 」

 ゴオオオォォ…… !!

 火柱がルナめがけて踊りかかる!

 ルナは目を閉じた……

「冥府より来たりし、ツクヨミノミコトよ…… 彷徨える炎を導きたまえ…… 」

 手をかざすと、炎が跳ね返った!

「なんの!! 」

 エマはさらに力を込めた……

「グググググゥゥ…… 」

 炎は中央付近で止まったきり動かなくなった……

「破っ!! 」

 ルナが気合いを込めると炎が四散して消えた……

「なかなかのパワーですね…… まずは力を分散してみなさい…… わたくしはすべての方向を感知して対処できますから心配いりません」

「はいっ」

 エマは手を胸の前で合せ、ボールを持つイメージを描いた……

「グオオォォ…… 」

 手の中に炎の球体ができあがった……

「ホノカグヅチノカミよ…… 火炎の海となりすべてを飲み込み、焼き払え! 」

 火炎球がどんどん膨らんでいく……

「ハアアァァァ…… !! 」

 そのままルナの方向へ向けて飛んでいく……

「ハアッ!! 」

 気合いを込めた刹那、ルナの周辺一帯が炎に包まれた!!

 しばらく火炎球はルナを焼き続けていた……

「ああっ! ルナ様!! 」

 エマは慌てて術を解き、炎を消滅させた……

「エマ…… わたくしはこちらです…… 」

 下から声がする。

 振り向くとルナがニッコリと笑っていた……

「攻撃を仕掛ける瞬間、あなたは隙ができています。前を見て集中するあまり、足元がおろそかになっていては…… 命がいくつあっても足りませんよ…… 」

「あ…… 実戦なら死んでいました…… ありがとうございます…… 」

 

 そのころエデンでは、武と愛が、ゼノンとエリスの神殿にいた。

「ゼノン様、エリス様…… お招きにあずかり、恐縮です…… 」

 武は深々と頭を下げた。

「地球での生活はいかがですか? 」

 エリスが優しく問いかけた。

「あ…… えっと…… 毎日が勉強の連続です。強さとは何か、地球に行ってから考えが改まりました」

「ふむ。ではマルスに問う…… 強さとは何かな? 」

 ゼノンはマルスを見つめたまま答えを待っている……

 穏やかだが、妥協を許さない威圧感を感じる。

 下手な答えは言えない……

 しばらく考え込んだ……

「自分は、地球へいくまで、ひたすら『武力』を磨いていました…… 」

 ゼノンが軽くうなずいた。

「ですが、中山家の方々に出会ってから、考えが改まりました…… 」

「どのように変わったのですか? 」

 エリスがさらに問う。

「本当の強さとは、かけがえのない、大切な人を守ることなのだと思うようになりました…… 」

「うむ。アフロディテはどう思う? そなたも地球でなにか、思うところがあったであろう…… 」

 アフロディテこと愛は、俯いたまま床の一点を見つめていた。

「お父様…… 私はいつも臆病で、何ごとにも消極的でした…… 」

 エリスは愛を見つめた。

「あなたは、戦いとか、強さとは無縁の穏やかな環境で育ったのです。無理もありませんよ…… 」

「私は箱入り娘でした。でも、そんな自分が嫌なのです。エマお姉さんのように、輝く立派な女神になりたいの…… もう、うじうじするのはいやなの…… 」

 愛は目に涙を溜めていた……

「愛…… 自分がお前を守るよ。それじゃあ駄目か? 」

 愛は首を横に振った。

「そうじゃないの…… 武さんに守ってもらうのは嬉しいよ…… でも私にも、できることがあるはずだと思うの…… 力が欲しい。美の女神だなんて、ただのお飾りじゃない!! 周りからチヤホヤされたいなんて、思わないのよ!! 」

 神殿中に愛の嗚咽が響いた……

「わかって欲しいの…… この苦しみを…… 自分が必要とされていないみたいじゃない! 私は戦わなくていいなんて、ひどいよ! 」

 しばらく間があった……

「美の女神の戦い方を、教えましょう…… さあ。涙を拭いて。マルスも聞いてください。必ず役に立ちますから…… 」

 エリスは意味ありげにニヤリと笑って、ゼノンをみた。

「うむ。全能の神と呼ばれておるがゆえに、余には不似合いな美の力も備わっておる…… ちょっぴり恥ずかしいが、使ってみせよう…… 」

 ゼノンが口元をキッと結ぶと……

「我らに美と愛をもたらした泡の化身よ…… 今ここにその煌めく姿を現したまえ…… 」

 ボコボコボコ……

 ゼノンが泡に包まれた……

「えっ! 」

「うおっ! 」

 そこには甲冑をまとったアフロディテがいた。

「ろ…… 露出が多すぎないか? 」

「ひゃあ…… お…… お尻が…… 」

「あはは…… 何回みても素晴らしい力ね! ちょっとエッチ! 品がないですよぅ…… はははは…… 」

 エリスだけが腹を抱えて笑っていた…… 

「解! 」

 ゼノンが元に戻る……

「ふううぅ…… むう…… 恥ずかしくて心臓が止まりそうになる業であるな…… 」

「お父様、今のは…… 」

 興奮で呼吸が乱れたのか、ゼノンもエリスも黙っていた。

「…… くくくくっ…… いや…… 涙が止まらないわ…… 死にそう…… 」

 エリスはまだ笑っている。

「そんなに笑ってくれるな…… 甲冑バージョンのデフォルト設定がこうなっておるのだ…… 」

「でも…… ひひっ…… これは反則よ…… どう? 全能の神を身近に感じるでしょう…… こんなに面白いオジサンになっちゃって…… 」

 エリスが落ち着きを取り戻すまでしばらくかかった……

 ゼノンは顔を紅潮させている……

「ふう…… 穴があったら入りたい気分であるな…… いや。ふざけてやったわけではないことだけは、察してもらいたい…… もう赦してくれ…… エリスよ…… 」

「さてと。気を取り直して解説しましょう…… 甲冑をまとっていることからもわかるでしょう…… アフロディテは、戦いの神でもあるのですよ…… 」

「左様。最高位の美の女神であると同時に、戦を司る神なのである…… 武器を用いれば、かなりの戦闘力を秘めておるのだ…… 」

「あの…… あの露出は変えられるのですか? 」

 なおも、アフロディテが聞く……

「ひゃあ! またそこを突くのね…… ひひひっ…… もうやめて…… 母さんを殺す気ですか…… 」

 ゼノンは頭を掻いた。

「う…… うむ…… ほとんど使わないので、余にはわからんのだ…… 試行錯誤してみるしかないであろうな…… 」

 愛は考えていた……

「私が戦いの神でもあるって、なぜ教えてくれなかったのですか…… 」

アフロディテ…… あなたには、戦いのない世界を、平和へと導く神になって欲しかったのです…… 」

「それが、間違っているのですよ…… 私を見くびらないでください! 」

 愛が、激しい表情を見せたので、ゼノンもエリスもたじろいだ……

「まあ…… アフロディテよ…… 親心も察してくれ…… としか言いようがない」

「ごめんなさいね。あなたはあまりにも可愛らしくてね…… 甲冑バージョンになるなんて…… ふふっ。また笑いが…… 」

「では。宇宙空間で訓練をしようではないか…… 」

 4人は1万キロ彼方へと移動した。

アフロディテ。私が相手をするから、思いっきり力を開放してごらんなさい…… 」

 母エリスは、不敵な笑みを浮かべた……

「血塗られた争いの神エリスよ…… 今こそその真の姿を現せ! 」

 カッ!

 エリスは槍を構え、甲冑を着ている。

「お母様。そのようなお姿を初めてみます…… 」

「ふふふ…… 多分エマの激しい気性は母譲りね…… あなたの母は、知恵の神などといって気取っているけど、血塗られた争いを司る神でもあるのよ…… 」

 エリスは笑っているが、何か過去がありそうだ……

 娘にも語らなかった、何かがある予感がした……

「お母様…… 私にとっては優しくて、いつでも正しい判断をしてくださる知恵の女神です…… 只々、最善の選択をしてこのようなお姿になったのです…… 」

 愛は、宇宙へ向けて両手を挙げると、目を閉じて気を練った……

「聖なる泡より生まれしアフロディテよ、その雄々しき姿を現せ! 」

 カッ!!

 光と共に、甲冑をまとった戦いの女神が、姿を現した……

「ちょっと、あちこち、スースーしますね…… 」

「そのコスチュームには、相手を油断させる効果もありそうね…… 中身がゼノンでなければ萌えるわ…… 」

 手には剣を持っている。

 武器を扱うのは初めてである。

 ズシリと手に重量を感じる。

 鉄の塊なのだから当然だが、初めて持つと振り回せる気がしなかった……

「お母様。真面目にお願いします! 」

「ごめんなさいね…… まさか母娘で真剣勝負はできないわね…… ハッ! 」

 槍が棒きれに変わった……

「ハッ! 」

 剣も棒きれになった……

「いざ! 尋常に勝負! 」

「はいっ! 」

 ヒュッ! ガキッ! ドカッ!

 槍が愛の腹部を突いた!

「ぐっ! 」 

「どう? これが戦いよ…… 気を抜けば一瞬であの世行きよ! さあ! どうしたの! さっきの勢いは…… 」

 一撃を受けた愛は、ぐったりとなった……

「1から鍛えなくてはダメね…… 責任を感じるわ…… 」

 エリスは愛を抱えると、エデンに戻った……

 

「ゼノン様。自分は戦いの神です。戦闘においては父にも1目置かれる存在です…… 」

 ゼノンは不敵に笑った……

「はっはっは…… 悪いがのう…… 宇宙にはまだ上がいるということを、教えることになるのだよ…… さあ、余はもう構えておる。遠慮はいらぬ。かかってきなさい…… 」

 不用意に棒立ちになっているようにしか見えなかった……

 マルスは少しプライドを傷つけられた気分になった……

「ゼノン様でも、油断されたということを、お教えしましょう…… 」

 マルスは怪しく双眸を煌めかせた!

「戦いを司る神マルスよ! 己の身を焦がす狂乱と、すべてを打ち砕く破壊に血塗られた神よ! 我に力を与えたまえ! 」

 マルスは聖剣を構え、ゼノンに踊りかかった!

 ゼノンの双眸が、辺り一帯を照らすほど激しく輝いた!

「風よ巻け! そして嵐となれ! 風の神ゼフュロスよ! 最強の力よ! その力で武神を吹き飛ばすのだ!!!! 」

 ゴオオオォォォ…… !!!

 凄まじい嵐が起き、空間全体を吹き荒れた!

「うっ…… ぐうっ…… 息が…… 」

 ゼノンに斬りかかることさえできずに、マルスはその場に倒れた……

 

 エデンに帰ると、直也、エマ、武、愛はそれぞれが受けた神の稽古について話し合った……

「皆こっぴどく、やられたって顔してるわね…… 」

「エマ。自分は世の中の広さを知らなかったことを、思い知ったぞ…… ゼノン様の強さは異常だ…… 」

「私は、1から鍛え直しですぅ…… 」

「俺は、風の力の使い方を、丁寧に教わったよ…… 」

「ナオヤ。ゼノン様が繰り出す風の力は、凄まじかった…… 手も足も出なかったぞ…… お前にもこんな潜在能力があるのだな…… 」

「まだまだ。全然足りないよ。アポロ様の波動で簡単に吹き飛ばされてしまった…… 」

「さてと…… 今夜はもう遅いし、身体を使うトレーニングをしているのだから、適切な休養も必要よ」

 エマが皆を促した。

「そうだな。明日は基本となる、剣術の稽古をしよう」

「そうですね。私は身体ができていないので、基礎トレーニングが必要だと言われましたし、武さんに教わりたいですぅ…… 」

 そこへゼノン、エリス、アポロ、ルナが揃ってやってきた。

「皆。神の一族の中心として、次代を担う強い神になるのだ…… 期待しておるぞ! 」

「明日は皆で激励会をやろう…… 」

 アポロが手を振って、笑いながら言った。

「それでは、失礼します」

 

怪しき波動

 

 中山家に戻ると、リビングには父と母がいた。

「ただいま」

「予備校がないと、時間にゆとりができるな。たまにはのんびりしなさい」

 父は穏やかにいった。

 夕食を済ませると、寝る準備をして直也の部屋にエマもやってきた。

「ねえねえ! アポロ様の力はどんな感じだったの? 」

「圧倒的だったよ…… 風の力なんか、全然使いこなせてないことを、嫌というほど思い知った」

「太陽の力は、パパも一目置くほどだからね…… そういえば、武が風のことを言ってたわね…… 」

「ああ。ゼノン父さんが使う風は、スケールが違うみたいだ…… 自分はちょっと驕っていたかもしれない」

「私ね…… 感じるのよ…… ナオヤが神の一族を束ねる日がくることを…… 」

「ちょっと大袈裟だよ。俺は風しか持ってないし、戦闘はズブの素人だ…… 」

「ううん。違うの。神の力を決めるのは『精神力』なの。ナオヤには宇宙さえも超えた、森羅万象すべてに通じるスケールを感じているのよ…… 」

「そういえば…… 先代ゼフュロスがいたって聞いたのだけど、どんな神だったのかな…… 」

「パパがエデンの総帥になる前に、エデンを治めていたの」

「おお。それでどんな神なのかな? 」

「名前は『ムラマサ シエル』というの。わかるでしょ」

「まさか…… 」

「今までずっと傍にいたのよ」

「シエルって、もしかして『空』のこと? 」

「そうよ。ゼノンをも凌ぐ力を振るった、伝説の神なのよ」

「それがなぜ執事に!? 」

「それは私にも測りかねるわ…… 」

 

 翌日、朝食前に直也とエマはエデンへ来ていた。

「アル…… 話を聞きたいのだけど…… 」

 と言い終わるや否や、オレンジ色の輝きと共に弓を持った少女が現れた。

「ナオヤ様。早速お呼びいただいて光栄に存じます…… 今後は『アル』とだけ仰ってくだされば結構です」

「うん。これは神の一族の流儀なのかな…… 僕は、あまり歳が変わらないアルに対して上下関係を作りたくないんだ…… 」

「と…… 仰いますと? 」

「僕はまだ神の一族の仲間入りをして、日が浅い。むしろこっちが、君に教えを乞いたい」

 アルテミスは返す言葉がみつからず、エマの方をみた。

「そうねぇ…… 一応配下の神だとしておいて、一緒にご飯を食べれば、少しは打ち解けるかもしれないわ…… アルも一緒に朝食を食べようよ」

「え…… えっと…… あの…… 」

「じゃあ。話の後一緒に地球へ行くってことでいいかな? 」

「…… はい…… 」

 アルは困惑しながら承諾した。

「それでね。呼び出したのは、ウラノスの動向を知りたかったからなんだ」

「はい。ウラノスの件について、アポロ様からも報告するように指示を受けております」

ウラノスがどんな神かは、私から話してあるから、今の動きを教えて欲しいの」

「承知いたしました。現在、ウラノスは火星にいます。地球から持ち帰った生物を増殖させて、戦闘用に進化させているようです」

「何だって!? まさかその進化生物を利用して、地球を侵略しようとか…… 」

「それはわかりません。ですが、目的もなくこのようなことはしないと思いますので…… すみません。憶測を交えた報告をしてしまいました…… 」

「アル。もしかして、ウラノス以外にも神がいるの? 」

 今度はエマが質問した。

ウラノスが、みずから火・水・風・土の能力を分けて、4人の部下を作り、従えています…… 」

「なるほど…… 俺たちは、早く力をつけないと、いけないようだな…… 」

「ありがとう。アル。何か動きがあったら逐一報告お願いね」

「はい」

「それじゃあ。地球へ帰ろう…… さあ。アルも一緒に」

 

 中山家のリビングには、6時になると家族がそろう。

 今日も父と母がいた。

「あら。新しいお友達ね」

「アルテミスと申します。『アル』とお呼びください。ナオヤ様に仕えさせていただいております…… 」

「そうなの? 直也も主任クラスになったのかしら」

 母は何とか自分が知っている言葉で、片付けようとした。

「母さん。神の一族には、こういう決まりごとがあるみたいなんだ。俺がゼノン様の義理の子で、アポロ様の親類だからだと思うんだけど…… 」

「それは違うよ。ナオヤはこれから神の一族の中枢に入るだけの、潜在能力を認められたからなのよ」

 キッチンからエマがいった。

「本当にそうなのかな…… 自分にそんな力がある気がしないのだけど…… 」

「はいっ。ハムエッグとサラダですよ」

「あっ。エマ様。申し訳ありません。わたくしが運びます」

 アルがキッチンに入ろうとした。

「アルちゃん! お客さんは座っててちょうだい」

 母が制すると、エマと一緒に運んできた。

「俺も自分の分くらい運ぶよ…… 」

 直也もキッチンから朝食を運んできた。

「オレンジジュースでいいかな? アル」

「は…… はい。恐縮です…… 」

「アルちゃんも、遠慮せずにしっかり食べなさい。朝食を食べると一日元気に過ごせるから」

 父もまるで娘に言うように話すのだった。

「そうだ。今日は剣術を武に教わるから、アルも一緒にやらないか? 」

「戦いの神から教えを受けられるなんて…… そのような機会を与えていただき、ありがとうございます。ぜひ参加させてください」

「アルちゃんも、ご家族とご飯食べるんでしょう? 」

 母が何気なく聞いた。

「あの…… いえ…… 私は良いんです」

「もしよかったら、これから朝6時にここへ来なさい。朝食を用意しておくから」

 母は何かを感じ取ったのか、アルにいうのだった。

 

 夕方エデンに4人で向かった。

「武。ウラノスは、進化生物を作り、配下の神を従えていると聞いたが、どう思う? 」

 アルの情報が1日中気になっていた。

 エデンにくれば、人目を気にせずに話せる。

「うむ。俺は近いうちに動きがあると思っている。恐らく地球を攻撃してくるのだと思うが…… 」

「その前に、私たちの様子をみに来るかもしれないわね…… 」

「早く戦えるようにならないと、いけないです」

「そうだ。アル! 」

 アルテミスが姿を現した。

「ナオヤ様! お誘いを、ありがとうございます」

 武が木刀を6本用意した。

「それじゃあ。僭越ながら、剣術について教えよう…… 」

 というと、木刀を皆に取るよう促した。

「まず、剣には2種類ある。両刃と片刃だ。両刃は斬れる部分が大きい代わりに、強度が劣る。片刃は反りがついていて、切り抜くのに適している」

 木刀を持つと、中段に構えた。

「これが基本中の基本。青眼の構えだ。各自やってみてくれ」

 愛は、勝手がわからず木刀を握りしめていた。

「小指と薬指でしっかり握って、他の指は添えるようにするんだ…… 」

 エマはちょっと変な姿勢になっている気がした。

「エマ! 基本だから、背筋を伸ばして頭が上に引っ張られるイメージを持て! 」

 武の指導は具体的でわかりやすい。

 そして、上段から切り下げてみせた。

「まずはこの動作だ。これは『上下振り』という基本動作である。人間の頭から真っ二つに切るイメージを持つのだ。これを毎日最低三千回行う」

「なるほど。さすがに物騒ですね…… 」

「次は、『袈裟斬り』と『逆袈裟』である。実際に上下振りの動作を、実戦でやることはない。アル! なぜだかわかるかな」

 武に指名されて、戸惑った様子だった。

「は…… はい。頭頂部から真っ直ぐ斬り下げようとすると、頭蓋骨で滑るからですね」

 明快に答えた。

「ひいっ! 頭蓋骨ですか…… 怖いです…… 」

 愛は、おびえた様子を見せた。

「そうだ。だから肩口から切り下ろすのだ。いつも相手をイメージして行うこと。下まで振りぬく動作は、最小限にする。一振りで決まることはほとんどないから、次の動作に移るスピードをいつも意識するんだ」

「はいっ」

 人間なら、いきなりこれをやったら、手にマメができるのだろうが、神は再生能力も高い。

 傷ができてもすぐに元に戻った。

「よし。皆! 筋がいいぞ。次は実戦的な技に移る」

 武は指導もうまい。

 戦いに関しては、彼に任せれば間違いなさそうだ。

「突き技だ。基本は両手突きを稽古するが、実戦的には、片手突きをよく使う」

 これらも三千本ずつ繰り返した。

「ナオヤ! 片手突きのときは、反対の引き手をしっかり引け。剣には虚実がある。技は全身を調和させなくては、上手くいかないのだ」

「はいっ! 」

 このような基本を、ずっと繰り返した。

 神は体力もあるので、人間が長い年月かけることも、すぐにこなすことができる。

「よし。では、地球で流行っている日本の剣道から、いくつか型をみせよう! 」

 柳生新陰流北辰一刀流神道無念流抜刀田宮流、天然理心流、無双直伝英信流などなど……

 武が次々に剣を持って舞うかのように、鮮やかな動作をみせるのだった。

「むう…… さすが武道オタクだな…… 」

 直也は感心すると同時に、いつこんなことを覚えたのだろう、と思った。

「こんなに生き生きしている武は、珍しいわ…… 」

「すごい! 美しいですぅ…… 」

 

伝説の神

 

 エデンには地球上のような昼夜がない。

 地球上では、地球の自転によって昼夜が起こる。

 太陽の側に向いているときには昼で、反対側にいるときは夜になる。

 そして、大気に包まれているから温度変化が少なく、生物が住みやすくできているのである。

 だから地球を離れたら、時計を持っていないと何時だかまったくわからなくなる。

「そろそろ、アポロ様のところへ行きましょう」

 愛がそわそわした様子で、皆を促した。

「アルも一緒に行こう」

「アポロ様に話してあるから。遠慮しなくていいのよ」

「はっ…… はい! ありがとうございます! 」

 直也は、アルのこの堅さを何とかできないかな、と思っていた。

 詳しくはわからないが、他にもアルのように従順に仕えている神がいるのだろう。

 そのような若い神が、もっと自由に振舞えたら、若い才能がもっとたくさん開花するような気がした。

「ナオヤは優しいね…… 私、そんなところにキュンとするわ」

 エマが呟いた。

 やはり自分の考えを、エマも後押ししてくれると感じるのだった。

「エマがいてくれるから、俺は自分の考えに自信を持てるんだよ」

 心の底から、信頼をおける人がいるということが、こんなに充実した気持ちにさせてくれるのだ。

 アポロの神殿の前に、ムラマサが立っていた。

「皆さん。お揃いでいらっしゃいますね。今日は、次代を担うニュージェネレーションを激励する会を企画させていただきました。アポロ様、ルナ様、ゼノン様、エリス様がお待ちです。さあ。中へどうぞ…… 」

 武と愛は、中へ入っていった。

 一緒に歩き出したが……

 直也はムラマサの前で立ち止まった。

 向き直ると強いまなざしを向けた。

「ムラマサさん…… 僕に、風の使い方を教えていただけないでしょうか…… 」

 表情を変えずに、笑ったままムラマサは黙っていた……

 明らかに様子がおかしい……

「私からもお願いします! 今は戦力が必要なときです。最強の神『シエル』の業が必要なときです! どうか…… お願いします」

 エマはムラマサに、すがりついて懇願した。

「…… 」

 ムラマサは何も言わずに、虚空を見つめ、首を横に振った……

「すみません。いきなり不躾でしたね…… でも僕は諦めません」

 いつものにこやかな、好好爺は姿を消し、別人のような危険な雰囲気をみせた。

 しばらく息をのんで見つめていたが、微動だにしなかった。

「ナオヤ…… 」

 エマが中へと促した。

 目つきがゾッとするほど鋭くなり、天空を見つめるムラマサを置き去りにして、残りの3人もアポロがしつらえた宴会場へ向かった。

「昨日の話を聞いて、つい言ってしまった…… ムラマサさんに失礼だったね。何か人にはいえない過去があるのは想像がつくのに…… 」

「きっと大丈夫よ。ムラマサさんの心には、正義の炎があるはずだから…… 」

「あの…… 私、やっぱりご一緒するのは…… 」

 アルは、アポロやゼノンと同じテーブルに着くことに抵抗を感じる様子だった。

「じゃあ。これは僕の命令だ。このテーブルについて、一緒に激励を受けてくれ」

「…… わかりました…… 」

 困った表情をみせたが、機嫌の良い顔を作って見せてくれた。

「アルにも頑張ってもらわなくてはいけない。当然激励を受けるべきだよ」

「そうよ。私たちと対等だと思って。存分に戦ってもらうんだから…… 覚悟してよ! 」

 エマは笑っていった。

 今日は武と愛が、主賓席にいる。その隣にエマと直也が並んで座り、向かい側にアルがいる。

 アポロが立ち上がった。

「では。今日は、このアポロのもてなしを受けてもらおうと思って、このような席を設けさせてもらった。まずは遠慮なく食事をしてくれ…… では略式ながら、カンパーイ! 」

 一同立ち上がり乾杯をした。

「ふう。運動の後の食事はやっぱり肉だよねぇ…… アポロ様はよくわかってらっしゃる」

 直也は緊張が解けた。

「私も。お腹すいてたのよ…… 遠慮しないでいいのよ。アルちゃんも」

 エマが気配りをして、アルに食事を促した。

 武は緊張した面持ちで、動作が固くなっているようにみえた。

 愛も俯き気味で食事をしている様子だ。

「エマ。見てごらん。愛と武の様子が変だ…… 」

 耳打ちをした。

「私もチラチラみてたのよね…… ここでやるのかしら…… 」

「アポロ様もそれを意識しているのかもしれないね…… 」

「あれ? パパがいないわ…… 」

 

 神殿の外に、ゼノンがでてきた。

「長い夕涼みですね…… 」

 ムラマサがゼノンに向き直り、小さく会釈した。

「何か言われましたか…… ニュージェネレーションに」

 少し笑うと、また虚空へ目をやった。

 ゼノンも同じ方向を見つめた……

「懐かしいですな…… 私とエリス、アポロ、ルナが束になっても一瞬で退けた伝説の神…… 」

「昔話ですよ…… 」

「あまり自分を責めないでください…… こんなあなたを見ていると、このゼノンが責められているような気分になる…… 」

「この空は、これからどうなっていくのでしょうか…… 」

 ムラマサは頬に涙を滴らせた……

「地球人を守ることが我々の使命です。神の一族には、いつも闇があります…… その闇もまた、神の一部なのではありませんか? 」

「ゼノン様。あなたは最強の光だ…… 自分はただ強いだけの闇ですよ…… 」

「正義は力であり、力は正義です。ムラマサさんが、正義をもって振るう力は本物です…… 正義の炎を絶やさないでください…… 」

「エマ様ですか…… ナオヤ様も、奇跡のような力を秘めておられる。あのお2人は、一体どこへ向かうのでしょう…… 」

「2人を正しい方向へ導いていただけませんか…… 闇を光に変えるために…… 」

「私は闇を、根こそぎ冥府へ葬ってしまいました…… 私も闇なのです…… この手は血で汚れています…… 」

「今は2大神などと呼ばれていますが、あなた様の力添えもあり、地球人の皆様に目を覚まさせられました…… 前に進む以外ないのです…… どんなに辛い過去があっても…… 前にしか道はないのです! 違いますか! 」

「エリス様が、唯一の希望です…… 私がこうして何とかやってこられたのは、エリス様をお救いできたからです…… 」

「今日祝宴に招いた若者たちは、眩しい光に包まれています。きっと我々の、けがれた過去を清めてくれることでしょう…… 」

 しばらく、空を見つめていた……

 ムラマサはゼノンの方へ眼をやった。

「すみません。わたくしがやるべきことは、空をぼんやり眺めることではありませんね」

「さあ。中へどうぞ。一緒に席についてください」

 部屋へ戻るとムラマサに、ゼノンが席を譲り脇に座った……

 ムラマサが立ち上がると、一同が視線を向けた。

「皆さま…… このムラマサは、かつて『シエル』と呼ばれておりました…… 訳あって、今日まで執事としてゼノン様にお仕えさせていただいておりました」

 誰一人として、動く者はいなかった。

 皆金縛りにあったように、いつも気さくなムラマサが見せた本当の姿を見ていた。

 薄水色のネフェーロマが、ムラマサを煽っていた……

「これは、風の神ゼフュロスの力です。わたくしは、ゼフュロスを血の色に染めた罪深い神でした…… ですが、同じ過ちを繰り返さないために、聖なる風を正しい方向へ導こうと思うに至りました…… 」

 ムラマサが、ゼノンをみた。

「ムラマサさん。いやシエル様。どうか中山直也を正しい方向へお導き下さい。このゼノンのことは、お気づかいなく。存分にお力を振るってください…… 」

 ゼノンが立ち上がって深々と最敬礼をした。

 それをみた一同が立ち上がり、皆ならって礼をした……

 伝説の神シエルが、直也の方へ歩み寄ってきた。

「ゼフュロスの力は最強にして最凶…… 使い手の心次第で、大量殺りく兵器になりうるのです…… 心して使ってください…… 明日、エデンでお待ちしております」

「ムラマサさん。ありがとうございます」

 直也は笑顔を返した……

 席に着くと、また食事が再開された。

 武と愛が手を止めた。

 武が立ち上がって話し始めた……

「皆さん。シエル様のお陰で、我々は長きにわたる平和を享受してきました。自分も血に染まった軍神です…… 戦うために生まれてきた、自分の宿命を重荷に感じることもありました…… ですが 地球で生活してから、何かを守るための戦いは正義の戦いなのだと確信しました! ここに誓います! 自分は、美と愛の女神を妻とし、終生守り抜きます! そして地球を。宇宙を。この森羅万象のすべてを平和に導くために戦います! 」

 愛が立ち上がった。

「私は軍神の妻となり、自身も戦いの神に相応しい存在になるよう努めます…… 」

 直也とエマが立ち上がり、拍手を贈った。

 それに呼応するように一同立ち上がり拍手が起こった……

 パチパチパチ……

「うむ。これで神の一族の主軸が確かなものとなった! 存分に励んでくれ! 」

 アポロが激励の言葉を述べて三々五々となった……

 

 翌日も、4人揃ってエデンに向かった。

 ゼノンの神殿前ムラマサが待っていた。

「ムラマサさん。約束通り、きました…… 」

 老爺は少し俯いて笑った。

「ナオヤ様。エマ様。お話があります。中へどうぞ。マルス様とアフロディテ様は、アポロ様のところへ行くように言付かっております…… 」

 マルスは軽く頷くとアポロ神殿へ向かった。

「では。参りましょう…… 」

 中では、ゼノンが待っていた。

「シエル様。玉座へどうぞ」

 ゼノンが立ち上がり、席を譲った。

 ムラマサシエルは、独特の雰囲気を放っている。

 落ち着きがあるが、やはり血の匂いを感じさせる。

 ゼノンよりも、遥かに威圧感があった。

「ナオヤ様。わたくしは、これから火星へ乗り込もうと思っております」

 シエルは穏やかに、そしてきっぱりと言った。

 その場に緊張が走った……

 ゼノンは、驚いた様子ではない…… 口元は笑っているように見えた。

 そして一瞬ハッとしたが、直也にも当然の流れのように思えた。

「はい。シエル様が、そうおっしゃるのであれば、お供いたします…… 」

「その前に、お聞きしたいことがあります」

「何でしょうか…… 」

「ナオヤ様。『力』とは何ですか? 」

 強さの象徴のようなシエルの言葉である。

 だが、その力が自身を苦しめているのだ。

 直也は悩んだ…… 

 心の奥底にあるものを、必死に探した……

 シエルは俯いたきり、答えを待っている。

 そして……

「はい。力とは…… 」

 シエルは直也を見つめた。

 射貫くような、強いまなざしで。

「力とは、現象です」

「現象…… ですか」

「僕は、エマに出会ったお陰で、神の力を覚醒しました。恐らく出逢いがなければ、ただの地球人として一生を送ったでしょう」

 シエルは頷いた……

「推測ですが、シエル様に見出され、力を得て今ここにいるのです…… 最強の風の力を持つに至ったことも、偶然ではないと思っています…… 大きな力を持つ者は、大きな現象を起こします。地球も、宇宙も、すべてを超越した森羅万象を左右する現象を起こすのです」

 目を閉じると、何度か頷いて見せた……

「なるほど。一理あると思います…… その森羅万象は、『イメージ』の中にあります。忘れないでください。良くも悪くも、自分が思った通りのことが起こります…… できると信じればできるし、できないと嘆けば、できないのです…… 」

 今度は、エマの方をみた。

「エマ様。『正義』とは何ですか? 」

「正義…… 」

 「正義の炎」と口癖のように、何度も言ってきた……

 だが、いざこう質問されると即答できなかった……

 正しさ、とは何だろうか。

 よく考えてみると、物事に正しいことなどあるのだろうか……

 正義と炎は、本当に関連があるのだろうか……

 争いが起こるとき、お互いに異なる正義を振りかざす。

 正義は思い込みだ、という人もいる。

 確かに始めから正しいことが、世の中にあるとは思えない。

 自分の心が正義を作り出すのである。

 そして、その正義を誰もが共有するとは限らない。

 人によって、神によって、正義の内容が異なるから、この世界の秩序が成り立つのだ。

 集団を形成し、組織を作るとき、正義を共有するだろう。

 だがそれは構成員の、心にまで深く浸透するわけではない。

 正義は「建て前」を作り出し、人を迷走させることがある。

 ウラノスにも、思い描く正義があるはずだ。

 だがそれは受け入れがたいものである……

「正義とは…… 思い込みです」

 シエルは満足げに笑みを浮かべた。

「良い答えですね…… 私の問いに、正面から向き合って考えていることがわかりました…… 2人とも。忘れないでください。物事に『答え』はありません。自分の経験が今のような答えをもたらしたのです。これらは流動的です。今後経験を積むほどに、深く、広く森羅万象を捉えるようになることでしょう…… 」

 ゼノンは、立ったまま俯いて目を閉じている……

 しばらく間があった……

「わがくしは…… ナオヤ様と、エマ様を心から愛しています。力も、正義も、愛がなければ、ただの幻想です…… お2人の誠の心に打たれました。このムラマサシエルは、心を揺さぶられ、痺れました…… 寝かしつけていた鬼が呼び起こされたのです…… 」

 シエルは立ち上がり、直也とエマに近づいた。

 そして2人の手を取った……

「よくぞ…… 神の一族に、愛という熱をもたらしてくれました…… ありがとう…… この言葉しか返せるものがありません…… 」

 

火星へ

 

 シエル、ゼノン、直也、エマは火星にやってきた。

 ヘラス盆地という火星の40%を占める窪地の中央付近である。

 遠くに火星を象徴するような、標高27000mのオリンポス山がみえる。

 火星の地形は非常にダイナミックである。

 地球のような地殻変動がないため、エネルギーが分散されず、火山はどこまでも巨大化していく。

 かつては季節の変化もとても激しかった。

 季節風は時速400キロを超えることもあり、渦を巻いて地面をえぐる。

 大気の組成は二酸化炭素が95%を超えていたが、長い年月をかけて、神の力で酸素と窒素と水蒸気の濃度が高められてきた。

 大気の中に水蒸気が増えることによって温室効果が起こり、気温が安定し、四季の変化も穏やかになりつつある。

「エマ。いよいよ来たね…… 」

「ふふふ…… もう、やるしかないね…… 」

 後ろに臙脂とピンクの光が起こり、マルスアフロディテもやってきた。

「やあ。俺は、父に太陽剣を託されたよ…… 」

 マルスが片刃の長刀を取り出して見せた。

「私は、ルナ様の力を分けていただきました」

 アフロディテは、にっこり笑っていた。

 ルナのツクヨミの力は、適性がある者に分けることができた。

 シエルはネフェーロマを出し、周囲の空気を安定させた。

 直也とゼノンも周囲の空気を調整する……

「ちょっと息苦しかったけど、気圧と空気の組成を変えてみたら良くなったね」

 直也はエマに笑いかけた。

「3人も風を使えたら、ちょっと贅沢なおいしい空気になるね…… ふふふ」

 マルスは周囲を警戒していた。

「どうやら、進化生物がいるようだぞ…… 」

 遠くに、巨大な熊のような生物がみえた。

マルス。あれは何だろう? 地球にあんなにデカい熊はいない…… 」

「俺にもわからん。誰か知らないか? 」

「私、宇宙の本を調べてみたんです…… あれは多分『クマムシ』じゃないでしょうか…… 」

「フーちゃん、良く知ってるね。クマムシって、初めて聞いたな…… 」

「地球上では体長1mm程度の小さな生物です。8本の足を持った緩歩動物の一種らしいです。名前に「ムシ」とついているけど、虫ではないようです。見た目が熊に似ていることから、このように名付けられたということでした…… 」

 一同がアフロディテの方を見ていた。

「このクマムシは『不死身の生物』といわれていまして、地球上の北極・南極から赤道直下、さらには深海底から高山地域など、あらゆる場所に生息しているのです。クマムシは過酷な環境に置かれると、乾眠状態になります。代謝速度を遅くして体内の水分量を極限まで減らします。すると、温度に対しては絶対零度に近い低温から150℃の高温まで、圧力に対しては0気圧(真空状態)から75000気圧まで、放射線についても人間の致死量の 1000倍以上まで耐えられるようになるのです」

「ほほおう…… フーちゃん凄いね。そのクマムシさんは宇宙空間でも、へっちゃらってわけね」

「その小さな生物をあんな風に進化させたのか…… おい! ネフェーロマを出してるぞ! 」

 クマムシは目が一つある怪獣といった風体だった。

 目の部分が、怪しく光っている。

「おい! 周りに集まってきたぞ! 」

「シエル様! 撃退しますか? 」

 直也が聞いた。

「それでは、クマムシを若手に任せましょう。わたくしとゼノンはウラノスを探します。ゼノンは後方を探してください。わたくしはオリンポス山の方へ向かいます。みんな! 何かあったら『シエル』と叫びなさい! すぐに駆けつけます」

「はい! 」

 4人はそれぞれ四散していった。

 

「アル! 」

 オレンジの光と共にアルテミスが現れる。

アフロディテを守れ!! 」

「御意! 」

「さてと…… この異形の怪物を沈めなければ…… 」

 直也の前には、赤いネフェーロマを放つクマムシがいた……

 体調は5mほどある。

 よく見ると、眼のようにくぼんだ部分にフィシキが埋め込まれている。

 8本あるずんぐりした足に、鋭い爪が生えていた。

「知能は低そうだが、神の力を使うとなると、一瞬でも気を抜いたらやられる…… 」

 100mほどまで近づいたところで、気を練った……

「風よ巻け! そして嵐となれ! ゼフュロスよ! 我に力を与えたまえ!! 」

 ウオオオオオォォ……

 薄水色の波動が起こり、クマムシめがけて襲いかかる!

「まずは様子見だ…… 広範囲に風を起こして出方をみる…… 」

 クマムシのネフェーロマが燃え上がった!

「グアオォォォ! 」

 鳴き声とともに火柱が起こった!

 ナオヤの風と衝突する!

 そのまま中央で押し合いになった!

「ぐううう…… 」

「グアオオォ…… 」

「くっ! まずい! 押し負ける…… 」

 火柱が風を押し、直也に近づいてきた!

「風よ! 我に集いて、炎を押し返せ! 」

 手をかざし、掌の中心にネフェーロマを集めて放出した!

「ぐおおぉぉぉ!!! 」

 力を全開にすると、炎を押し返すことができた……

「ギャオオオオォォ!!! 」

 クマムシは竜巻によって、上空へと巻き上げられた……

「解!! 」

 ズズウウゥ……ン!!

 術を解くと、地面に叩きつけられ動かなくなった……

「こっちにはもういないようだ…… エマ! 」

 反対側へ向かったエマを追った!

「ああ。直也。熊の丸焼き、一丁上がり!! ってね…… 」

 エマも戻ってくるところだった。

「俺の方のクマムシはフィシキで炎を出してきたよ…… 」

「こっちは風だったよ。あまり使いこなせては、いないようだったけどね…… 」

「さっすが。俺はちょっと危なかったよ…… はあ…… まだまだ修行が足りないな…… 」

 

 そのころマルスは……

クマムシめ…… ターコイズブルーのネフェーロマ…… こいつは水か? 」

「グアオオォォ……!! 」

 雄たけびと共に、水柱が放たれた!

「厄介だな…… 太陽剣で一気にカタをつける!! 」

 ドドオォォン!!

 津波のような水柱が後ろにも起こった!

「戦いの神、摩利支天よ! 陽炎の天部よ! ヒノカミの力を剣に与えたまえ!! 」

 ゴオオォォォ……

 太陽剣が黄金の炎に包まれた!

「おりゃああぁぁ!! 」

 振りかぶった剣を全力で振り下ろす!

「ギィャアアアァァ…… 」

 黄金の波動が水を蹴散らし、クマムシを焼き尽くした!!

「よし! 愛!! 」

 反対側に行ったアフロディテを追った。

「グアオオアァァ……!! 」

「ひゃあ! ベージュのネフェーロマ! 土ですね…… 」

 クマムシは周囲の岩を上空へ飛ばした!

「これは…… まずいですね…… 」

 そして、岩がアフロディテに襲い掛かる!!

ツクヨミの神よ! 冥府より来たりて我を守れ!! 」

 銀の波動が岩を受け止めた!

「よいしょっとぉ!! 」

 クマムシに掌を向けると、岩が飛んでいった!

 ズズウウゥン……!!

 クマムシは下敷きになり、息絶えた……

「おい!! 愛! 大丈夫か!? 」

 マルスが駆け寄った……

「やったあ! 私、結構デキル女みたいですぅ」

 アルテミスは、アフロディテに気付かれないように消えていった……

 

 4人は元の場所に戻った。

クマムシにフィシキが埋め込まれていたよ…… 」

「こいつらを、地球へ送り込むつもりだったのか…… 」

「とんでもないことを、考えたものだわ」

「私、少しだけ自信がつきました」

 そこへ、ゼノンが戻ってきた。

「やはり、オリンポス山の方に何かあるようであるな…… 余が先に行って皆を呼び寄せよう。シエル様が何か見つけたかも知れぬ」

 ヒュウゥゥゥゥ……

 ゼノンは緑の波動をほとばしらせ、彼方へ飛んでいった……

「皆、ケガをした者はいるか? 」

「大丈夫みたいですね…… 」

クマムシは知能が低んじゃないか…… フィシキにこれ以上適応できない気がする」

「でも、可能性は考えておいた方がいい。進化の過程で、突然変異種が生まれるかもしれない」

「そうね。ナオヤのいう通りだわ」

クマムシを使ったのは、宇宙空間でも耐えられる可能性があるからでしょう? やっぱり地球へ送るつもりだったのだと思うよ…… 」

「ああ。そう考えるのが妥当だ。地球で戦闘が起こったら、大変なことになる…… シエル様は、火星に乗り込んで、元を叩こうとされたのだ。さすがの判断力と行動力だ」

「ふふふ。伝説の力をもってすれば、誰も太刀打ちできないでしょうね…… 」

「そうかな。ゼノン様が、今まで火星に来なかった理由があるはずだ…… それに、シエル様は、何か過去の記憶がトラウマになっているようだ…… いかに強くても、手心を加えるようであれば、隙が生まれる…… そこが懸念材料だ」

「うん。そうね。私、ちょっと楽観視し過ぎだったわ…… ナオヤのいう通りよ」

「それで、ナオヤ。これから戦局はどうなると思う? 話してみるとわかる。お前がリーダーのようだ」

マルス。ちょっと俺を買いかぶりすぎだ。まあ、仮説にすぎないが、オリンポス山の麓にウラノスの配下の神がいると思う。やはりあの山が、火星のランドマークだろう…… だから、4人の神がそれぞれ神殿を築いて住んでいる。ウラノスは全体が見渡せる高いポイントに神殿を設置しているだろう…… 」

「すると、また4つに分散して戦うのか? 」

「そうかも知れないが、クマムシがあと何頭いるのか、5人の神がどう動くかをみて決めなくてはならないだろうな…… 」

 4人は唸った……

 しばらくして、

「…… ゼノンだ…… 皆、余の波動をイメージするのだ…… 」

 テレパシーが飛んできた。

 目を閉じて緑の波動を頭に描いた。

 キイイィィィン……

 目を開けると、オリンポス山の麓にいた……

 シエルとゼノンが山の方をみている。

「シエル様…… 」

「皆。クマムシを倒したようですね…… 私はここに来るまでに3頭倒しました。ゼノンは2頭だそうです。まだまだいるかもしれません…… 」

「神殿が5つみえる…… 恐らくウラノスと、配下の神がいるのであろう…… 畑と家畜もいる。長期にわたって滞在しているから、自給自足しているのだ」

 ゼノンがオリンポス山の方向を示した。

ウラノスと話をするには、どうしたら良いか考えているのです…… 」

 しばらく6人は、オリンポス山の神殿を見つめていた。

「むっ! 後ろだ!! 」

 ゼノンが振り向いた!

 キイイィィィン……!

 白い光と共に、5人の神が現れた!

 眼が眩むほどの光は、徐々に晴れていった……

「…… シエル様…… 」

 白いネフェーロマをまとった、すらりと背が高い神が呟いた……

 背格好はゼノンと似ている。

 だが無表情で、虚ろな眼で遠くをみている……

 双眸は輝くような白眼で、気持を推しはかれない不気味さを感じさせた……

ウラノス…… 」

 4人の配下の後ろに、ウラノスが立っていた。

 マルスが太陽剣を構えた!

「まちなさい…… マルス。剣を持っていては握手ができなくなります…… 」

「シエル様。お恐れながら、油断してはなりませんぞ! 」

「ここは、わたくしに任せてください…… 」

 シエルが進みでた。

 まるで、無人の野を行くかのように歩を進める……

 落ち着いた、ゆっくりした足取りだが、最強の神が持つ威圧感は凄まじかった……

 そして、5mほど間をおいて、5人と向き合った。

「お前たち…… 名前くらい…… 名乗ったらどうですか? 」

 シエルの目が鋭く見据える。

「あっ…… はい…… わたくしは、火のアグニです…… 」

 赤いネフェーロマを出してみせた。

「水神アープです…… 」

 こちらはターコイズブルー

「風神、ヴァーユです…… 」

 薄水色……

「ドハラ。土の神です…… 」

 ベージュのネフェーロマ……

 少し間があった。

 ヒリつくような空気の中、だれも身動きできなかった……

「ふむ。では…… わたくしは、ムラマサシエルと申します。かつては伝説の神などと呼ばれていましたが、今はただの老爺に落ちぶれました…… 」

 ウラノスの眼の奥から、深遠な煌めきが見え隠れする……

 シエルと直也たちの間には50mほど間がある。

 だが、まるで目の前にいて、眼で射貫かれているかのような感覚に襲われた……

 少しでも動けば、薄水色の波動が襲い掛かってくるのではないか、と思わせた……

ウラノス! 」

 鋭く気を吐いた!

 気圧された4人の配下は、脇へ下がり道を空けた……

「ここへ来るまでに、進化させたクマムシをみました…… 神の力をあのような怪物に宿らせるなど…… 誇り高き神の一族がやることではない! あなたは神の誇りを忘れたのですか? 」

 ウラノスは、シエルを真っ直ぐに見つめ返した……

「仰ることは、ごもっともです…… ただ、わたくしは、地球人を粛清すべきだと思い至ったのです…… 」

 シエルは振り返ると、直也の方をみた。

「ナオヤ様。こちらへ…… 」

 直也は小さく頷くと、ゆっくりシエルの方へ歩いていった。

 そして、シエルの隣で立ち止まった。

ウラノス様。僕は、ただの地球人でした。退屈を感じてはいましたが、平和な日常を享受するだけのつまらない人間だったと思います。でもエマがうちにやってきてから、運命が変わったのです…… 神の皆さんとの出逢いを経て、神の一族の仲間入りをして、今こうして火星にいます。この奇妙な運命は、自分に与えられた天命だと思っています。地球人として、神の一族の皆さんと繋がり、また神の一族として地球を守る。そして宇宙を守ることが自分に課された天命なのです」

 ウラノスが、直也の方を興味深げに眺めていた。

「地球人が…… 神の力を持つに至るなど、ほとんどありえないことだ…… アポロのときにも、奇跡が起きたとしか思えなかった…… 君が神の一族になったのはなぜなのだ? 」

 いつの間にか、エマが直也の傍にやってきていた……

ウラノス様。ナオヤは神をも凌駕する、気高い心を持っているのです…… 宇宙を超えた森羅万象を、この優しい眼の中に、いつも写しているのです。このスケールは今まで他の誰にも感じなかったものです。ナオヤをよく見てください。地球も、神の一族も超越したスケールを感じるはずです…… 」

 ウラノスは、しばらく沈黙していた……

「…… 」

 不意に黄色とオレンジの閃光が起こった!

「アポロ…… アルテミス…… 」

 アポロは穏やかに笑いかけた……

「なあ。ウラノス…… このナオヤとエマに、自分とゼノンはこっぴどく説教されたよ…… この2人の両親も、自分たちを諭したんだ…… 自分たちは、神の一族だなどと驕っていたのだ…… 誠の心をもって今を生きるものが、最強なのだ。自分はこの2人から学んだよ。お前もそうするべきだ」

 そして、アルテミスの方へ目くばせした。

「私は、ナオヤ様にお仕えしています…… ナオヤ様は、毎日朝食に誘ってくださいます。上下関係を超えて、皆に公平に接してくださるのです。若い神がもっと自由に振舞えれば、才能を持った神が力を発揮するのではないか、とおっしゃいました。そして、いつも広い視野で物事の本質を見極めようとなさいます…… 」

 ゼノンもやってきた。

ウラノスよ…… 余は自分の了見の狭さが恥ずかしい…… ナオヤとエマは、いつも自分の眼で物事を見極め、全力で生きておる。神も人間も、限られた時間を生きておる。だがのう。気高き精神は不滅なのだ…… シエル様もこの2人の生きざまに心を打たれて、再びゼフュロスにお戻りになったのだ…… 」

 アポロは、虚空を見つめていった。

「よお。ウラノス。一緒に飯でも食おうや…… 」

 横目でウラノスをみた。

 

晩餐会

 

 ウラノスたち5人は、アポロ神殿へ招待された。

 火星に行った一同も、席に着いた。

 主賓席にはウラノスがいて、配下の4人が周りを囲むように座っている。

 シエルとゼノン、アポロが入り口側に座った。

 アポロは立ち上がり、皆にあいさつした。

「こうしてシエル様とウラノスを招いて晩餐会を開く日が来たことを、うれしく思う! 各々の考えもあり、今までしがらみもあったが、お互いを尊重しあうべきなのではないだろうか。我々が目指すべき道は、宇宙の秩序を保ち、真の平和を作り上げることである! そのために結束しようではないか! 」

 シエルが促されて立ち上がる。

「わたくしは、かつて最強の神などと呼ばれていましたが、とても器量が狭く、償いきれないほどの罪を犯しました。神の力が、何のために授かったものなのかを、今一度考え直して1から出直したいと思っています。このような気持ちになったのは、地球で奮闘されているエマ様とナオヤ様の姿を拝見したからです。ウラノスに、わたくしと同じ轍を踏んでほしくありません。どうか、エマ様とナオヤ様とともに、神の一族を盛り立てていってはくれませんか」

 ウラノスの配下の神たちは座ったまま顔を見合わせている。

 ゼノンが立ち上がった。

「我々は同じ神の一族だ。こうして食卓に着いたのだから、まずはいただこう。略式ながら、カンパーイ! 」

「カンパーイ! 」

 配下の神たちは、ウラノスを見つめていた。

 ウラノスは軽くうなずいた。

 表情は硬いままだが、少し心を許したようにみえた。

 ウラノスたちも、もてなしを受けて食事をした。

 そして、一同は三々五々となった……

 

 火星に戻ったウラノスたちは、大人しくなった……

「ねえ。ナオヤ。ウラノスと話しても大丈夫みたいだったね」

 エマは安心したようだった。

「ああ。ウラノスと直に会って話ができたおかげで、気持ちの整理ができたみたいだ…… 」

「シエル様も復活したし、安心して暮らせるようになったね! 」

「そうだね。俺は、まだまだ神の一族の中心になれるほど強くない…… 自分をもっと高めていきたいと思っているんだ…… 」

「焦らずにやっていけばいいよ」



宇宙神エマ・ディアプトラ ~UCHUJINEMA~

 

FIN

 

 

この物語はフィクションです