瀬戸内の離島には、元々医者がいなかった。
急病人が出ると、船で運ぶ時間が惜しいため島民から医者がいてくれたらと言われていた。
都会の暮らしに疲れ、時間がゆったりと流れる島暮らしにあこがれていた俺は一戸建てを借りて移り住んだのである。
ある日、急病人が出て駆けつけてみると酷い口臭がしていた。
「胃潰瘍でしょう。
すぐに胃洗浄して治療しないと危ない」
何度かアル中の人が同じような症状で倒れるところを見ていた。
本土の総合病院に運ばれると、俺の見立てはピタリと当たっていたそうだ。
それからというもの、病人が出るたびに運び込まれるようになった。
外科的な治療を簡単にできる設備を整え、名ばかりだが手術室もこしらえた。
最早都会に居場所はない。
島で骨をうずめる覚悟を決めた。
困っている人を助けるための行いだったが、医者のいない離島とは言え許されない。
ウソで固まった病院もどきが、俺の居場所になった。
その居場所もウソなのだが。