魔法のクリエイターと言われる理由、お教えします

人は知る。人は感じる。創作で。

【プロット】銭湯にいる対人恐怖症の歌手

 俺が歌手デビューしてから、もう10年が経った。

 キャバレーで時々歌っていたら、歌唱力を認められてヒット曲も何本か飛ばした。

 そんな俺は、あろうことか対人恐怖症だった。

 ステージにいる時はいつも上の方を見て、できるだけ人が視界に入らないようにする。

 人と向き合って話すのが苦手なので、トーク番組には出ない。

 マネージャーは心得ていて、人が近づいてくると間に入ってくれた。

 下町の銭湯に入ってみたくなって、プライベートで出かけてきた。

 人通りが多いが、自分をちらちら見るくらいで、あまりプレッシャーはなかった。

 脱衣所で衣服を脱ぐと、湯船に浸かった。

 隣りに入ってきたおっさんが、

「あれ、あんた有名な歌手の ───」

 しまった。

 顔を隠すサングラスも帽子も取っていたのだった。

「だれだっけ」

 少しズッコケたが、おっさんは照れくさそうにして体を洗いに出て行った。

 ドヤドヤと、団体客が入ってくる気配がしたので、サッと体を洗い出て行こうとした。

 その時、

「あれ、あんたは」

「おお俺も知ってるぞ」

 まずい、と思った俺はサッサと着替えて勘定を済ませた。